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   02


「じゃあ、今日は帰るから早く寝ろよ」

「私は子供じゃないんですけどって、さっきも言いましたよね」

「俺からしたらクソ餓鬼だろうが」

「………確かに」

「手前ぇ……」


……自分で言っておいて何故怒る。



とりあえず、相変わらず短気なこの人は置いておくとして。
先ずは自分だと、気付かれ無いように頬に手を当てた。


私は、普通の顔が出来て居るだろうか……


頑張っている感は否めないし、変わらないこの人の物言いに救われて居るのも確かだけれど……


「本当に、嘘みたいに普通で助かります」


今までとは違う。
半分は本音で、半分は嘘だ。


「初心者相手に躊躇ってたら先に進まねぇだろが」

「相変わらず良く解りませんけど、莫迦にされてる事だけは何となく解りました」

「何でそうなるっ」


こうして言葉を交わしながら、この人の言葉に性懲りも無く痛む胸の傷みに蓋をして、私は可愛くない言葉を選んでは、ほんの少し自分を護る楯にする。

期待はするなと。
どうか溢れてくれるなと自分を戒めながら……。






「じゃあ。また、な……」


今度こそと頭に置かれた優しい手と、優しい声音に続いて聴こえた『解錠』を唱える声に空間が歪んで、現れる闔に反射的に俯いた。


帰らないで欲しい。


なんて、そんな事も口が裂けても言えないから、強張る躯を宥めてこの人の気配が消えるのを待った。

今まで誤魔化し続けた感情を素直に認めて居るだけ進歩だと自賛しつつ、それがもう無意味な感情だとも知っている。


この人を好きだと自覚したのはいつだったか。


認めたと同時に叶わないと思い知った恋だったけれど、今はそれで良いと思っている。

この人がこうして来てくれる理由が解らなくても、もう会えるだけで十分で……。


それでも、その想いの中に少しでもと望む私は、本当に往生際が悪いと苦笑した。






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