01
「本当に、悪かった……」
そう言って頭を下げようとするこの人を慌てて止めて苦笑した。
多分、私は困った顔になっていて、そんな私を見るこの人の瞳も揺れている。
この人にすれば、きっと私に理由を聞いて欲しいんだろうと思う。
それが解っていて尚、自分の感情を優先してしまう幼い自分が嫌になる。
「何か理由が有ったなら、もうそれで良いでんです……」
そう言って微笑をつくったら少し逡巡したような顔をされたけれど、今の私にはこれが精一杯で。
話を聞けば、聞きたくない事まで聞かなきゃならなくなる。
それはまだ、私には無理そうだと思えた……。
「あ、でも。その、こうとつ?とか断崖、だんかい?の話は聞きたいです」
今後の参考にもなるしと純粋に言えば、フイ、と顔を隠すようにそっぽを向かれた。
「…………」
「……何だよ」
「いえ……」
その顔が少しだけ嬉しそうに見えるのは、出来れば私の気のせいじゃなければ良いと思う。
何かの気紛れでも良い。
私はこの人の傍に居たいんだ。
いつか終わりが来る、その時には。
きっと私は、泣いているんだろうけど……。
「……あ、でもですね。今後は約束も、外で待ち合わせるのも止めたいです」
「っ、だから」
「あ、いえ。責めてる訳じゃなくてですね……」
約束したら期待してしまうし、解っていてもダメになったら悲しい。
「連絡も着けようがないですし……」
来ないこの人を待ち続けて、心配するのも嫌だ。
「それに、何かしつこく道を訊かれるのも嫌だなって」
「……は?道?」
「道」
何時間も待ちぼうける私が余程暇そうに見えるのか、矢鱈と話し掛けられて道ばかり訊かれるわ、案内しろと煩いわ……
「そんなに私って、話し掛け易い顔してるんですかね……って、あの、どうかしまし……」
「もう、絶対ぇ外では待ち合わせねぇし!」
いや、あの。何でそんな力説……
「……そうしてくれると、助かりま、す?」
落ち込むこの人って言うのも初めてで、つい凝視してしまえば、いつにない真剣な眼差しが私を捉える。
「あの……」
「お前……」
「はい?」
「絶対、知らねぇヤツに付いて行くなよ!?」
「だから何回、子供じゃないって言わせるんですかっ」
結局。
やっぱりこの人は相変わらずこの人だと、渇いた笑いが溢れた。
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