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   23


「そろそろ、顔見せろ」

「…………」


もう、本当に何なんだ。

いっつもいっつも、人の話なんて聞かないくせに。
言いたい事を言って、やりたい事をやって。

好き勝手を押し通すくせに、何で今日に限ってそんな事を訊く。


心の準備も有ったもんじゃない。
と言うか、阿散井さんも本っ当に信じられない。


何で私だけ置いて逃げるかなっ



阿散井さんの言う通り、この人は来た。

向こうの世界との距離なんて知らないけれど、何でこんなに速いのかと唖然とする程に速く……。


『阿散井……』


抱き着いてやるも何もない。

まだ阿散井さんの膝の上で言い争いをしている最中に、聴こえた地を這うような声音に振り向けば、この人が無表情で立って居て。

そうして一体何をどんな風に勘違いをして、しかも何に怒っているのかは知らないが、怒り心頭で現れたこの人に、壮絶な笑顔と共に阿散井さんが追い出された後、不機嫌マックスで捕獲されて今に到る。




なぁ、おい、こっち向けとしつこく言われても、一言だって発せないまま首を振った。

とにかく今は話し掛けないで下さい。

少しでも声なんか出したら、せっかく我慢している涙が溢れちゃうじゃないですか。

もう一度会えた。
もう一度、声が聴けた……

嬉しくて、本音を聴かれた事が恥ずかしくて腹立たしい。


「なぁ」

「………」

「顔が見たい」


……だからっ


「紗也」


―――…っ


聴いてんのかって、だから本当に何なんだ。


ゆっくりと仰ぎ見たこの人の顔は、いつもの偉そうな表情なんかじゃなくて。

眉を寄せて、不安気に瞳を揺らして……


「会いたいっつったのは、違うのかよ……」


違わない。私は……


「…………違っ」


やっぱり……。

思った通り、言葉にした途端に溢れ出した涙を止めたくてキツく瞳を閉じた。


―――…っ


刹那、窒息する程に強く抱き締められて口唇を塞がれていた。

何もかもを奪うような圧倒的な熱に、躯だけじゃない、思考までが麻痺するように痺れて行く。


息も、胸も苦しい……


のに、震える手でこの人に触れて力を込めた。


それでも、今はこの腕の中に居たいんだと……。






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