20
少しずつ、少しずつ。
今まで目を逸らし続けたモノと向き合ってみた。
耳を傾けて本能的な恐怖とも闘う。
そうして初めて、少しだけあの人の世界が見えて来た。
護廷って組織がどんな物なのか、そして、私達が行き着く先の事……。
副隊長がどれだけ忙しい人なのかを知って、今も変わらずに顔を出してくれる阿散井さんにお礼を言った。
「阿散井さんが前に言った、その先を知ったんです。ほんの少しですけど……って、何ですかっ」
そんなに驚いた顔をしなくても良いじゃないですかっ
少しムクれてそう言えば、阿散井さんが笑顔の後でその表情を真面目なモノに変えるから、何となくこれから云われる事が判ってしまって瞳を伏せた。
「……だったら、よ。そろそろ先輩の話を聞いてやってくれねぇか」
「…………」
阿散井さんは、今日は来た時から少し固い表情をしていたから、そうかなとは思っていた。
だから、とうとうと言った方が正しいのかも知れない。
私を見据えて、あの人の事を口にした。
「先輩に言われた訳じゃねぇぞっ……て、」
ンな事は良く解ってるかと苦笑されて胸が痛む。
解っている……なんて、私があの人の何を知っていると言うのかと自嘲しか洩れない。
それでも、あの人はそんな事を頼んだりはしないだろうと思えた。
『知りたくない、し……。名前も憶えてません』あの日、そう答えた私に、阿散井さんが寂しそうな顔を見せるから、それが何だか凄く申し訳なくて誤魔化すように微笑を作った。
私は、あの人の帰る先を知りたく無かった。
知って、認めて。
ただ気付くのが怖かった。
今まで必死で見ない振りをして来た、モノに……。
今更解ったって、会えなくなってからじゃもう、遅いのに……。
「……今までのお礼と、失礼な発言のお詫びを伝えて下さいますか?」
もう二度と会う事の無い、あの人に。
「……それが、応えかよ」
「………はい」
あの人も、もう私に会いたいなんて思わないはずだ。
やっとガキの御守りから解放されて、ほっとしているだけで……
『元気無ぇんだよ……』……もしも、阿散井さんの言う事が本当だったとしても、やっぱりそれが私に関係有る事とは思えない。
「もし、まだ何か気にされているようなら、別にもう……」
「そんなんじゃっ……ねぇっつってんだろーがって、ああ゛もうっ……ンっとに強情な奴等だなクソ」
手に負えねぇって、急に怒り出したり引き攣ったりと、阿散井さんが忙しなく表情を変える。
「何で、たった一言が言えねぇんだよ……っ」
そう募られても、もう私には言いたい事なんて……
「……って、解った」
「何です、か……」
不意に何かを思い付いたように口角を上げるから身構えてしまった。
「だったら、こうしようぜ」
一つ条件が有ると、トン と目の前に置かれた携帯のような物を注視する。
それが無理なら自分で掛けろって……
「……何だ」
阿散井さんがあまりにも厳しい顔をして言うから、条件って何だと構えてしまった。
「そんな事で良いんですか」
そう言う私に、お前には難しいだろと口角を上げるから苦笑が洩れた。
「お前が先輩の名前を言えたら、」
「檜佐木修兵」
「………お、前…」
私の言葉に勢い良く目を向けた阿散井さんが、解り易く口元を引き攣らせるから微笑って見せた。
「九番隊の、副隊長さんですよね」
知っている。
忘れる訳が無いじゃないですか。
だって、好きなんですよ……
あの人が、まるで私を護るように現れたあの日から。
きっと、ずっと……
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