18
「だから、ちょっと待て!」
何も言わずに踵を反した瞬間、ぐい と肩を引かれて息を吐く。
そうして、私がこの人から逃げ出せた事なんて無かったと、どうでも良い事を思い出しては苦い顔になった。
「…………」
もう一言だって口を聞きたくなくて、俯いたまま口を閉ざせば、呆れた溜め息が降って「ガキか」と続く声が聴こえた。
その言葉に、目頭が一気に熱を持って口唇を噛み締めた。
何で……
掴まれた肩が痛い。
目の奥も、喉だって焼け付くように痛む。
さっき振り払った腕も、今になってじんじんと痛みを主張して居た。
私は責められるような事をしたんだろうか。
この人の言葉を真に受けて、何時間も莫迦みたいに待って居た。
何か遇ったのかと心配して、昨夜は結局、眠る事も出来なかった。
あれくらいの事で拗ねる、笑えもしない私が、この人の言うガキだっていう事なのか……
「私…、は……」
待ってたのに?
……心配していたのにとでも言うつもりか。
そんなのは私の勝手な言い分でしか無くて、この人にとっては、ただ迷惑な話でしか無いのに……?
本当に、可笑しくて嘲笑えて来る。
この人と居ると、理不尽な事ばかりだ……。
「とにかく。俺も直ぐに行くから、一度家に戻って着替え……」
「次は、せめて笑える冗談にしてくれると助かります」
「………は?」
こんな手の込んだ事をしてくれなくても、私だって、それなりに傷付くようには出来ている。
例えば私が、この人の言う、莫迦で何も知らないガキだったとしても……
「私にだって、感情くらい在る……」
「おい、どうし……っ」
気付けば、伸びて来た手を振り払っていた。
「……私に、触らないで」
嫌がらせにも程が有る。
いつも私をからかって、意地悪な事ばかりを言っては莫迦にする。
それでも、こんな風に人を傷付けるような嘘を吐く人じゃないと思っていた。
「暇なら、他で潰して下さい」
もう来ないで下さい……
次なんて無くて良い。
アンタなんか、大嫌いだ……
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