13
「良いなぁ」
「何がだよ」
「何ってこの観覧車……って、本当何してるんですか」
さっきまで、いやいや、今の今まで一人で居たはずのベッドの上。
違和感なんて全く無い。
自然に私の隣に収まるこの人は……
「また来たんですか……」
「またって言うな」
いや、絶対にまたですよね。
「やっぱり護廷……」
「暇じゃねぇっつのっ」
「痛いですっ!」
気不味い……
と言う言葉はこの人の辞書には存在しないのか。
はたまたこの間の一件なんて、やっぱりこの人にとっては数の内にも入らないのか。
暫くここへは来ないんだろうと思っていたこの人が、次の日まるで何も無かったような顔をして私の元に現れた。
「後者だな」
「何がだよ」
「やっぱり、慣れてる人は違いますよねって話です」
この人の、余りにも変わらない普通っぷりに私の物思いは数瞬で霧散して、色々と反芻しては頭を抱えていた24時間が莫迦らしく感じた程だ。
本当にあの日は何をしに来たのか。
来るだけ来て『今日の目的は果たした』と10分程で踵を反した後ろ姿を、
『目的って何……』
唖然として見送ったのは言うまでもない。
「……無かった振りも大変なんだっつの」
「文句が有るなら聞こえるように言って下さい」
「ガキの御守りは大変だっつったんだよ」
「帰れっ」
何って相変わらずな人なんだ……。
「そんな事より」
「そんな事じゃないです」
「このデカい円い物体がどうしたよ」
「私の話を聞いてます?……って、ああ」
これですか、とこの人の指差す先に目を向けた。
「これは観覧車って言って、高い所までゆっくりと回って上がる乗り物です」
雑誌に載っていた有名なデートスポットだと云うこの観覧車は、天辺で115mにも達するらしい。
だから別にどうしたって言う程のものでは無い。
夜に乗ったら星に近付いて綺麗な光が見れるのかなって、好きな人と見れたら幸せなんだろうなって、ちょっと思っただけだ。
「一緒に乗ってくれるヤツの一人も居ねぇのか」
「本っ当、余計なお世話ですからっ」
だからアンタは毎回毎回何なんだ!
悪態吐く為に来てんなら帰れっ
「……って、何ですか」
そんな嬉しそう……いやいや、絶対に裏やオチが有りそうな顔で見ないで下さい。
「可哀想だから、今度俺が連れて行って……」
「結構です」
「何でだよ」
何でって、今度は何で急にムッとなるのかな。
そんなの当たり前じゃないですか。
「一人で乗ってる寂しい女だと思われるのはご免です」
何であんなカップルの溢れる列に、(見た目)一人で並んで(見た目)一人で乗らなきゃならないのか。
逆に寂し過ぎる。
それに、そんなに莫迦にしなくたって良いじゃない。
「そんなに憐れまれなくても、いつか誰かに連れて行って貰うから良いんですっ」
私と、一緒に見たいと思ってくれる人だって、いるかも知れないじゃないですか……
「私が好いって……って、まぁ良いや」
私が好いって思ってくれる人だって居るかも知れないなんて、そんな事を言ったら、そんな奇特なヤツが居る訳ねぇだの、鏡を見ろだの、また莫迦にされて終わりだ。
これ以上の突っ込みも口論もご免だと雑誌を閉じれば、ちょっと貸りて行っても良いかと訊かれて驚いた。
「っ、………どう、ぞ?」
誰かと行かれるんですか?
なんて、野暮な事を口にしなくて良かったと息を吐く。
デートスポット、だし……
少しだけ不機嫌そうに、何かを考え込むような難しい顔をしたこの人を、どうしてか見ていたくなくて私はそっと視線を反らした。
prev /
next