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  08


「っ……」


息苦しさと、口唇に感じる柔らかな熱


瞳を閉じる事も出来ずにいる私に、そっと掌で覆うように瞼を伏せさせる。
そのまま滑らせた手は頬を捕らえるけど、ただ受け留めるしか出来ない私に抵抗のコマンドは無かった。

やっと離された口唇が首筋を辿って、チリ とした痛みを痕しても――…








「………信じられない」


駆け込んだトイレの鏡の前で、紅く主張する痕を確認して項垂れた。


『ちょっ…、アンタ目立ってるって!』


教室に着いた早々、腕を引かれて耳打ちされた言葉に首を傾げた。


『……えっ、と。何で……?』


朝から何かやらかしたかと逡巡すれば、トン と指差されたのは首筋で……


『どう……』

『キスマーク!何を惚けてんのよっ』


身に憶えが無いとは言わせないと、吐けとばかりに詰め寄る悪友に冷や汗を流しながら後退る。


身に憶えなんて無い。

けど、犯人は判る。


ムカつく刺青を思い浮かべながら、後で説明するからと苦し紛れの言い訳をしてダッシュで逃げた。


「あんにゃろう……」


いつの間に何て事をしてくれるっ


纏めていた髪を下ろして鷲掴む。そのまま紅くなった顔を覆い隠した。

反芻せずとも浮かび上がる光景をキツく眉根を寄せて打ち消しながら、叫び出しそうになる衝動に耐えた。




嫌がらせにも程が有る。


『危機感の無ぇガキに、思い知らせてやっただけだろ』

『頼んで無いし、アンタが一番危ないから』

『お前みたいなガキには興味無ぇから安心しろ』


俺は、色気の有る大人っぽい女が好きなんだよって、まんまじゃん。


『でしょうね』

『何だよ』




ゆっくりと離れて行った熱にやっと思考が廻り出した時、視線を感じて滲む瞳で見上げれば、私を見下ろす双眸が揺らめいた。

その失敗したと謂わんばかりの表情に、


『俺は、お前……』

『今度は何の嫌がらせですか』


どうせ、また小馬鹿にしたような理由なんでしょうと、言い掛けた言葉を遮った。

案の定な苦情の言葉に、やっぱりねと思っただけだ。




「ムカつく……けど、その前に」


教室で待ち構えてる悪友達への言い訳を考えなきゃいけない。

あれだけ動揺した後で虫も無いよねと、害虫以下の死神に怒りが増した。


「次っ……」


会ったらって……


何を考えてるのかと嘆息する。
当たり前になりつつ有るあの人の存在が、ほんの少し怖いと思った。







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