02
バレンタイン当日の今日、瀞霊廷中に充満する甘い匂いが鼻に付いて不快感を感じたのは、被害妄想以外の何物でも無いだろう。
執務室にも何となく居づらくて、一日中資料庫に籠ってしまった。
出来るなら、今日くらいは偶然にでも会いたくない。
覚悟した現実は、不発に終わっただけに辛いものだったりする。
「さて……」
執務室に戻って帰ろうかなと立ち上がる。
そろそろ隊舎内も、人が疎らになった頃だろう。
昨夜は眠れなかったから、今日は寝る!
そして明日には忘れてしまおうと思った。
「――――っっ」
ガチャリと扉開けた瞬間、ヌッと伸びて来た腕に捕らえられて、声にならない悲鳴が上がった。
ななな、何っ!?
廊下に出たはずの私は、元の資料庫に引き戻されている。
開けたはずの扉が閉まる音がする。
鍵が落とされる音が、不自然な程に響いた気がした……。
「恋、次……?」
「……以外に誰が居んだよ」
「違うっ」
恋次だって事は知っている。そうじゃない、そうじゃなくて……
「何で居るの?」
こんな所に、こんな時間に……
「昨日の返事、」
「っあーっ あのね、それはもういいから!もう…、要らないから……」
聞きたくない。
今更、追い討ちを掛けるのは止めて欲しい。
「俺が良くねぇんだよっ」
「………ですか」
何だかムッとした様子が腑に落ちないけれど、こんな事にまで律儀な恋次が恨めしい。
「……ったく、何処を探しても居やしねぇし、伝令神機まで切りやがって」
どれだけ手間を掛けさせるんだよと文句まで云われても……
「何も其処までして断りに来なくても良いじゃない」
「何でそうなる。俺は其処まで暇じゃねぇ」
って怒られたって、でもっ
「固まってたじゃないっ」
私が何回、どんな想いで同じ説明紛いの告白を繰り返したと……
「それでも、少しそっと……」
「俺はお前が好きなんだよ」
「…………は?」
「だから、俺は紗也が好きなんだっつの」
有り、得ない……
「お前ぇも聞き返してんじゃねぇか」
だって……。
恋次が、私なんか、を……
「好きだ。そろそろ友人の振りも限界なくれぇ……」
そう言って、放心する私に差し出されたのは、恋次からの逆チョコだった。
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