01
「…………は?」
と鳩が豆鉄砲でも喰らったような、間抜けな顔で恋次が確認をして来る。
驚かれるだろうとは思っていたけれど、そこまで驚かなくてもいいじゃないと、差し出したままの小さな箱が何だか悲しい物に見えて来た。
今日は十三日で、バレンタインデーではない。
誰よりも早く渡したい、なんて可愛らしい事を思った訳でもない。
恋次は、それこそ可愛い女のコ達から嫌になるくらい沢山貰うだろうから、十四日は渡す隙も無いんじゃないかと思って、昨日からずっと持ち歩いていた。
恋次が一人で居たら渡して告げてしまおうと、遅いよりは早い方が善いかなと思っただけ。
そうしてさっき、一人で通りを闊歩する恋次を見付けて声を掛けて、一体何だよと訝しがる恋次をちょっとだけだからと路地裏まで引っ張って来たんだけれど……
「や、だからね。えっと……、いつもあんなだけど、私は恋次が好きだったの」
恋次のさっきの問いはもう二度目のもので、私は受け取っても拒否しても貰えずに、居たたまれない思いで告白を繰り返す羽目になっている。
此処まで来たら、何の嫌がらせかと言いたくなる。
別に、都合の良い返事を期待していた訳じゃない。
ただ、友達の振りで傍に居る自分が嫌になってしまったから。
恋次の隣じゃなくて、腕の中に行きたいと思ったから。
今までの全てを失くしても、望みなんて無くても……
恋次には迷惑にしかならない想いでも、伝えて、そして許されるなら、今度こそ友達でいたいと思っただけなのに。
告白と一緒に差し出した箱はまだ私の手の中に在る。
一生分の勇気も遣い果たした。息も儘ならない程の緊張も、もう何処かに行ってしまって、代わりに渦巻いているのは虚無感だった。
チラリと目を向けた恋次は、相変わらずの表情で現状の理解が追い付いていないらしい。
つまりはそう言う事。
私の告白なんて寝耳に水で想定外。そして……
全くの対象外だって事……
「………もう、解った」
莫迦みたいに掲げていた物を引っ込めて、更に目を見開いた恋次には下手くそな笑顔を返した。
分かってはいたけれど、流石に少し堪えた。
「……ごめん」
何か、言って欲しかった。
そんな勝手な想いを押し付けてしまった……。
「恋次、あの……」
「「阿散井副隊長〜っ」」
此処までタイミングも悪いとか……
背後から掛かった声に苦笑する。
こんな所で何してるんですかと、嬉々として寄って来る女のコ達に溜め息が洩れた。
結局。
此れからも良ければ変わらずにいてと、それすら伝えられずに終わるのか……
「じゃあ、行くね。呼び止めてごめん」
渡す事も叶わなかった箱をギュッと握り締めて、隠すように袂に入れた。
長かった片想いは、完結する事さえ出来なかった……。
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