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03


隊舎前まで瞬歩で向かった後は、一人で居るはずの四宮を驚かせないようにと注意して進む。

そうして辿り着いた執務室には、自身の机で転た寝をする四宮の姿……


無防備過ぎんだろ……っ


こんな夜更けに一人で何を暢気に寝てやがると、自分が何をしに来たかも忘れて霊圧が上がった。

途端にガバッと起き上がったのは流石、って、そうじゃねぇ。


「檜佐木副隊長……?」

「何でこんな所で寝てんだよっ!!!」

「……っ すみませんっ」


その俺の怒声に、ビクリと肩を揺らして口唇を噛み締める四宮に、やっちまったと眉間に指を押し当てた。

違う、そうじゃねぇ。


「危ねぇだろうが……」


何か遭ってからじゃ遅ぇんだ。
怒鳴って悪かったと頭を撫でれば、涙に潤んだ瞳と目が合って、はい、と小さく返された。

本当は、この前からの最悪な態度の詫びをして、それから好きだと告げるつもりで意気込んで来たっつーのに……。
つい怒鳴ってしまったせいで出鼻を挫かれて言葉が続かねぇとかもう、俺はまた何をやってるんだと再び頭を抱えそうになる。

どうするかと視線を回らせれば机の脇に置かれた小さな空箱が目に入って、今度は胸がジリジリと痛んだ。

四宮に誰か、他に好きなヤツがいる。

空になった箱は間違いなく誰かに向けた物で、渡せなかったらしい事実だけがせめてもの救いだろうか……。


「あ、これは……」


じっと見詰めちまっていた俺の視線に気付いた四宮が、慌てて伸ばしたその手を捕らえて包み込む。

俺にしておけばいいのにと、切望するように口唇を寄せた。







突然現れた檜佐木副隊長に、何で、どうしてと思考が回った。

突然だったのは、転た寝なんかしちゃってたからかも知れないけどでもっ

どうして此処に……?

と口にしようとした瞬間、居眠りを叱責されて肩が跳ねた。

執務中に寝るなんて、大失態だと涙が滲ぶ。
しかも……


「こ、れは……」


もういいやって食べちゃった、目の前の本人に渡すつもりだったチョコレートの空箱まで見付かって。
檜佐木副隊長は何も知らないんだからと思うのに、居たたまれなくて伸ばした手を捕られた。

その手を……


「………ゃ…っ」


檜佐木副隊長に口唇で辿られて躯が震える。


「俺にしろよ」


低音が鼓膜に響いて、熱が、集まる……。

それは……

有り得ない、と言うか、檜佐木副隊長は怒っていたはず…… 都合良く考えてしまいそうになるのを必死になって否定する。
のに……

逃がすまいと力を強める檜佐木副隊長の掌が、手首に触れる口唇が、熱い。

自分でも解る。
檜佐木副隊長の熱に浮かされて躯中が熱い。立って居るのがやっとだ……

息も儘ならない。
声も、上手く出せ、ない……


「あ、の……。酔ってますよね……」

「酔ってねぇよ」


私の言葉に少しムッとしたように目線を向けた檜佐木副隊長が、私を捉えて目を見開いて……

くっ と口角を上げたのが解った。


「俺で、いいよな」

「…………っ」


恥ずかしい……

もう全部解っていて、ゆっくり、ゆっくりと檜佐木副隊長が近付いて来る。

私が逃げないと知っている……。


「本当は先に、謝らなきゃならねぇんだけど、後でいい?」


問い掛けるくせに、私の応えなんて待っていない。


狡い……


そんな顔をした私に、くしゃっとした微笑みを向けて、「凄ぇ好き」って囁いて


「キスしてもいいよな」


って、また意地悪を言った。





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