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08


「じゃあ、Merry X'mas!」

「「「「「 Merry X'mas!」」」」」

「…………」


乾杯〜と盛り上がり捲る同期らの声に、眉間に指を押し当てた。

そうして、「何、不機嫌な顔してんの?」と肩を抱こうとする、隣の…………


「誰?でしたっけ?」

「酷ぇ〜っ」


明らかに同期じゃない男から不審を隠さずに距離を取れば、「其処が好いんだけどよ」と楽しそうに笑顔で云われて眉間に皺が寄った。





騙された……。


本当に何なんだと叫んでも良いだろうか。

同期会だって言うから。
しかも、欠席で返事をしていた私に態々九番隊まで押し掛けてっ


『いや、だから欠席って……』

『アンタ、今まで一回も出てくれた事無いじゃないっ!筆頭のくせにっ』

『え、其れは悪かったけど……』


‘筆頭のくせに’の理由は知らないけれど、何も此の忙しい時期を狙ってやらないでも善いじゃないかと言いたい訳で。

其れに我が九番隊では、家族や恋人を大事にしてやれって言う副隊長の心遣いから、特に此の時期は妻帯者や恋人がいる隊士の休暇を最優先している。

其の分の皺寄せは、全て檜佐木副隊長に掛かっていると言っても過言では無い。

そんな大変な時に、私が一時と云えども抜ける訳には行かない訳で……。


『とにかく、私はそんな暇無……』

『じゃあ、許可が有れば良いのねっ』

『は?ちょっ、待っ……』


て、と止める間も無く、『今日くらい良いですよね、檜佐木副隊長っ』って、何を副隊長に振ってんのよっ


突然、話を振られたって檜佐木副隊長にも迷惑なだけで、ホント止めてと蒼くなる。


『ちょっと、アンタ達っ……』


そんな、慌てて止めようした私の耳に届いた声は、予想を違えたものだった。


『良いぞ』

『えっ?あのっ……』

『って言うか、行って来い』

『…………』


ほら、檜佐木副隊長も良いって言ってるじゃないとはしゃぐ同期の声をスルーして、此の騒々しい中、書類を確認していらした檜佐木副隊長に向き直れば、優しい微笑みが其処には在った。


『副隊長、あの……』

『お前、そう言う集まりに出たこと無ぇだろ』


だから偶には顔を出して来いと言われて、言葉に詰まってしまった。

嬉しい、はずの言葉なのかも知れないけれど……。


止めてくれると思ったのに……


ほんの少し、寂しい、なんて。

少しだけ、しづらくなった呼吸が苦しくて、右手でそっと胸を押さえた。


今年も、結局二人で残業になるんだろうなって。

髪をふわっと梳くように、ありがとなって撫でてくれていたのに………





「なぁ」


其れにしても……。


「俺の話、聞いてるか?」


って、ちょっとこの男、シツコイんですけど……。


「聞いてません」


だから何処かに行って下さいと、なるべく離れようと距離を取るのに。


本当に何なの?


あっと言う間に詰め寄られて、何だかさっきからベタベタと気持ち悪い。


「申し訳無いんですが、触らないで貰えます?」


何のつもりかは知らないけれど、訊いてもいない事をベラベラと話し出した此の男(名前は忘れた)の話に依れば、


『……って訳で、院生の時からずっと気に入ってて、今日はアイツらに呼べって頼んだんだよ』


全く記憶に無いけれど、どうやら一応‘先輩’というヤツだったらしい。


頼んだって……


「いい迷惑……」


絶対に命令だろうと、益々嫌な気分に陥った。

ムッとしてるのが解ってるくせに、ニヤニヤとした顔がまた腹立たしい。

念の為にと言うか、同期らには一睨みしながら『早目に抜けるからねっ』とは口パクで告げてある。
小一時間も我慢すれば、半ば脅されたらしい同期達にも迷惑は掛からないだろうと溜め息を吐いた、のに。


…………っ


「ちょっ、」

「何?」


何?って、本当に何なのよっ


小一時間なんて、とても保ちそうにない。


「何、するんですかっ」


皆に見えない壁際から伸びた手が、不躾に躯を這おうと蠢くから虫酸が走る。

先輩だろうが何だろうが、もう、ぶん殴って帰ってしまいたい。


「っ……、」


此のっ、と反射で動いた手を押さえられて歯噛みする。
周りを見渡せば、此処以外は楽しく盛り上がっているようで、声を荒げるのも気が退けた。


「彼氏と別れたんだろ?」

「関係無いですよね、ちょっ……」


触らないで。
近付かないで。

檜佐木副隊長が撫でてくれた髪に、アンタなんかが触れないで。

もう嫌だ。
もう、帰りたい。

気持ち、悪いっ……


「だから……っ、触らな……」

「触ってんじゃねぇよ」

「「「「「―――…っ!!」」」」」





………此の、声は………





………誰っ?




う、わぁああっ……って、腰を抜かさんばかりに驚いて、慌てふためく‘先輩’とやらの様子を見るに、私を収める此の腕が誰のモノなのか、容易に解りそうなものだけど……


「………次は無ぇ」


耳に振動と共に伝わる、聴いた事の無い低い声。
蒼白なんてモノじゃない程に顔色を失くした‘先輩’に向けた、殺気混じりの霊圧……


「……檜佐木、副隊長?」


ですよね、と。

胸の前、回された腕をギュッと抱けば、応えるように籠められた力に安堵した。


「……帰りたい、です」


どうして此処に檜佐木副隊長が居るんだろう

なんて今の私の頭が廻る訳も無く。

遅いですと理不尽な泣き言を溢せば、少しだけ和らいだ霊圧が私を包んでくれた。


強張った、躯中の緊張が解けて行く……。


無言のまま抱き上げてくれた檜佐木副隊長の胸に顔を埋めて、離れないようにと死覇装を握った。





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