05
「何だってこう、修兵の思惑通りに……」
「何か仰いました?」
「全っ然っ?」
日番谷隊長がお留守なのを良いことに、書類配達に来た私を捕獲して、何だかんだと話を振っておきながら……
「惚けるのは他所でやりなさいよね」
相変わらず過ぎる乱菊さんに渇いた笑いが溢れる。
昨日の今日で、昨夜は夢にまで檜佐木副隊長が出て来てしまった。
もう顔を見るだけで恥ずかしいですと言っただけなのに……
「もう修兵で良いじゃない、修兵で!」
此れでアイツも静かになるでしょって何ですかそれ。
だからそう言うんじゃないんですと言ってるのに、お茶をズズ―…ッと啜りながら面白く無さそうに言う女神様は、まだまだ私を解放して下さる気は無いらしい。
此れ以上弄られる前に、出来ればもう隊に戻りたい。
とは言わせて貰えずにまた一時間コースだろうかと遠い目にもなる。
今日はまだまだ十分程しか経って居ないから、檜佐木副隊長が痺れを切らすのも先だろうと細く息を吐き出した。
「………あ」
私の呟きに乱菊さんの眉間に皺が寄る。
近付いて来る。
大好きな霊圧に胸の奥が騒付いた。
でも……
「何を苛付いてんのよアイツは」
ニヤッと笑った乱菊さんとは反対に、私は何事かと焦ってしまう。
然してガラリと開けられた扉の前
「檜佐木副隊……」
「帰るぞ」
私を視界に映した瞬間、何故か更に不機嫌さを増した檜佐木副隊長がズンズン奥まで入って来て、乱暴に腕を取られて立たされた。
「あのっ……」
「またねぇ、紗也」
其のまま、引き摺られるようにしながら目を向けた乱菊さんは、呆れたようにヒラヒラと手を振っていた。
「檜佐木副隊長……」
「怒ってねぇぞ」
「は、い……」
其れは何となく判る。
でも、不機嫌なのは間違い無くて、其の理由が解らなくて不安になる。
乱菊さんに捕まるなんて事はしょっちゅうで、其れでも余程の事が無ければ迎えに来られた事なんて無い。
『またっすか……』
今までなら、勘弁して下さいとやんわりと乱菊さんに苦情を述べて、先に戻って良いぞと促される。
まぁ、本当に忙しい時はあの人も解ってるからと苦笑して。
今日はまだ十分も経って居なくて、急な討伐と言う訳でも無さそう、で……、って……あっ……
そうか、そうだったのかと納得がいった。
「申し訳有りませんっ」
気付か無くてと謝罪すれば、檜佐木副隊長の眉間に皺が寄った。
「おい…?」
「私が乱菊さんを占領しちゃっ……」
「違ぇし!」
何だか力一杯否定されて、だったら一体何でだろうと窺ってしまう。
そんな私に溜め息を吐いて脱力すると、何処か開き直ったような顔になる。
「此れが俺なんだよ」
「………」
いつもハッキリと物事を伝えてくれる、檜佐木副隊長の其の言葉の意味が解らずに見詰めてしまう。
そんな私に微笑って、くしゃ と髪をすくようにして撫でる。
「五分だって耐えられねぇし、誰にも見せたくなんか無ぇし」
「お話しが、良く……」
解りませんと言う私には、まだ解られても困るからなと、益々訳の解らない事を云う。
こんな檜佐木副隊長は初めてで、私は戸惑うしか出来なかった。
「檜佐木副隊長……」
「んー?」
「…………」
んー?じゃないです。
「急ぎじゃ無いんですか」
「そんな事言ったか?」
……言ってない。
けど、あんな風に連れ出されたら、誰だってそう思うだろうと口をパクパクさせてしまう。
行くかと歩き出したと思ったら、まるで散歩のように歩調を緩める。
繋がれたままの手に躊躇っても、見越したかのように力を籠められて離す事は叶わない。
「迎えに来ただけ」
「私は子供じゃないんですが……」
「当たり前だろ」
子供じゃ俺が困んだよ。
そう言って苦笑した檜佐木副隊長の瞳は、やっぱりいつもとは違っていて……
何だか、知らないヒトみたいに見えた――…
*
「独占欲丸出しで連れ戻しに来たって云えば善いのに」
「本っ当、余計なお世っすから」
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