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01


「阿近さんは、何か願い事とかは有りますか?」


相も変わらず阿近さんの研究室に顔を出し、取り留めの無い事を話し掛ける。


此れはもう、私の日課と言うか最大の癒しと言うか……

ただ、好きな人の傍に居たいだけだったりする。


そんな私の言葉に阿近さんが振り返ってくれる事は稀で、今も手を休める事無く難解な数式を弾き出して居る。


「……もしかして、七夕か?」


其れでも。

こうして、聴いて居ないようで居てそうでは無い。
ちゃんと返事を返してくれるようになった。


少しだけ長くなった時間。
少しだけ近付いた距離。

其れが嬉しいと、自然笑が溢れた。


『条件の好い餌場に見す見す行かれても困るからな』


阿近さんが口にする理由は相変わらず難解だけれど……。




「は……い、あの。九番隊では恒例で、全員が必ず短冊を書くんですよ」


渡された短冊を見て、阿近さんの願い事って何だろうと思った。

何でも自力で叶えてしまいそうな此の人が、何かを望んだりするんだろうかと……


「お前は何て書いたんだ」

「私……、ですか?」


私は……


「八月七日から二連休が欲しいって書きました」

「えらい具体的だなオイ」


其れは要望だろと少し呆れた声音で、今度は此方を向き直った阿近さんが怪訝そうに私を注視するから、そんなにおかしな願い事だったろうかと首を傾げた。


毎年、願い事を書くのに苦慮している。

可愛くないかも知れないけれど、叶えて欲しいような願いは無い。


「そんなに変ですか?」

「まぁ、らしいと言えばらしいのか………」

「何ですか?」


他力本願なタイプじゃねぇしなと愉しげに笑んで居た阿近さんが、急に真面目な顔になるから不思議に思って問い掛けた。


「其の」

「はい……?」

「具体的な数字に何か意味は有るのか?」


数字……?


「日付だ」

「……、ああ。其れはですね」


現世の或地域では、八月七日が七夕の主流だと聞いた。
其れから、星が降り注ぐ町が在るんだとも……


「綺麗だろうなって思ったんです。休みが取れたら行ってみたいなぁって……、あの……?えっ?阿近さん?」


急に伝令神機を取り出して誰に……、ちょっ……何でそんな命令口調、で……


「取れたぞ」

「えっ!?」


何、が……と、茫然と呟けば、連休に決まってんだろと呆れられた。


「いえ、あのですね……」


呆れたいのは此方です。
此の、忙しい時期に二連休とか……


「七日から、魏骸の申請出しとけよ」


………鬼、ですか。



一緒に行くぞと言ったきり、其れ以上何を言っても取り合ってくれない阿近さんに頭を抱えつつ、


此の人に何かを願っちゃダメだ……


どんな願いも平然と叶えてくれちゃいそうだと、自戒する私だった……。






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