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02


行くぞと出された手を取った。

魏骸越の感触は慣れないけれど、其れでも初めて繋がれた手が嬉しくて、紅く綻ぶ顔を俯けた。

視界に入った、いつもは研究、実験に明け暮れる大きな手は、今は私に繋がれて居る。



『穴が開く』

『ごめんなさい……』


現世に着いて此処に来るまでも、私服姿が珍しくて、ついつい目で追っては散々呆れられた横顔を盗み見る。

そう変わるもんじゃねぇだろと言う阿近さんに、全然違うんですと主張した。

忙しい阿近さんが、今だけ、私だけの為に傍に居てくれる。
そんな有り得ない事が起こってる。


『二度と無いかも知れないじゃないですか』

『お前な……』


そう言った私に、阿近さんはまた呆れて居たけれど……


『……好きにしろ』


最後にはどうやら諦めてくれたらしい、そっぽを向いてそう言った。

少しだけ堅い声音に、また何か間違ってしまっただろうかと不安になったけれど、其れを見越したかのように強く握られた温もりに安堵した。

あの阿近さんが手を繋いだままで居てくれる。

私は其れだけで嬉しくて、星を追うように阿近さんを見詰め続けてしまう。

此の、常で在れば、手を伸ばしても届かない人に。

今は……



「阿近、さん?」


私の視線に直ぐに気付いた阿近さんが、立ち止まって私を引き寄せた。

さっきまでとは違うその行動に、そのまま腕に収まりながら何ですかと問い掛けた。


「……っとに。ずっと我慢してやってんのに人の気も知らねぇで」

「…………っ」

「そんな瞳で見るな」


もう人目は無ぇからなと、云うが早いかスカートの裾から侵入して来た手が内腿を弄り出す。
つ、と下肢までを指で辿られて息を呑む。
躯中が戦慄くように震えた。


「阿、近……さん」

「だから其の瞳、止めろ」


いい加減、見んなっつってんのによ


呆れた風でいて、そうと判る程に熱を孕んだ吐息を溢す。

然して、


「俺は何度も忠告はしたからな」

「――…っ」


大きな掌で私の視界を覆った後に、塞がれた口唇に舌先と共に捩じ込まれたのは魏魂丸で……

茫然と見遣る私に口角を上げて、魏骸は趣味じゃねぇと平然と宣う。


こんな所で、不謹慎じゃ……


なんて言葉が十二番隊に存在する訳も無く。

余計な事を言ったら、結界も張ってくれなさそうだと口をつぐんだ。






誰も居ない。

ただ無数の光だけが降り注ぐこの場所で……


「紗也……」

「……好き、です」


阿近さんだけを感じていた――…







*


「星は綺麗だったか?」


晴れてたろと、この二日で何だか窶れた檜佐木副隊長に訊ねられた。


「っ…………」

「どうした?」

「……い、え」


星……は、綺麗だった。
凄く、凄く綺麗で。
それは絶対に間違いない、んだけれど……。


違う星に見惚れて、惑わされて……


あまり憶えていないなんてとても言えないと、色付く頬を押さえた。






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