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03


もう、無理……


あれから一週間。

いよいよ此の甘い空気に耐えられなくなって来た。


エイプリルフールって、こんなに引き摺るものじゃなかった気がする……


修兵が、間違いなく冗談だっていう事だけは解っている。

こんなに甘い空気を醸し出しながら、修兵は私にキスはしない。
愛しむように触れる、振りをする……。



あの日以来、好きだと口にする事も無い修兵は、もしかしたら私から何かを言って来るのを待っていたのかも知れないとやっと気付いた。


「修兵」


呼び掛ければ、邪魔するなとばかりに睨まれて苦笑する。

今の態勢では、其れすらも甘く感じる自分が、莫迦みたいで……。


「修兵が、好き。……此れで、いい?」


私の言葉に、修兵が目を見開いたのが解って目を反らす。
膝枕なんてしているせいで、俯く事に意味は無い……。


「もう一週間も付き合ったんだから、良いよね」


終わりに、したって。

ふざけているならそろそろ解放して欲しい。
修兵に優しくされればされる程、胸が痛い。

こんな風に愛しいもののように触れられたら、勘違い処か……

この一週間で、私はもう完全に修兵に堕ちていて、ううん、もしかしたらずっと好きだったのかも知れないと気付いた。

そんな私には、嘘に付き合っているこの状態は相当キツい。


「修兵」

「…………」


泣きそうな顔になってしまっているのは解っている。
修兵も、軽く瞠目した後は真面目な顔で私を見遣る。


「あの、ね」

「あのよ」

「………っ」


タイミングまで、悪い。

しょうがないからと続きを待てば、修兵が私の頬に優しく触れた。


「っあ――…、悪かった」

「…………っ」


やっぱり……


そう思ったら、我慢していた涙が溢れ出た。

泣いたらダメだって、修兵が気にするって思うのに、莫迦な私は泣き顔を晒したままで、止める手立ても何も無い。

怒って、冗談にしてあげる事も出来ない……


「ごめ……っ」


修兵の頭を外そうと掛けた手を取られても、今は笑って文句を言える余裕は無い。


「ごめん、帰る……から、離して」


このまま帰して欲しいのに、私を捕らえたままの修兵が解らない。


「悪い。やり過ぎた」

「……其れはもういい」


振り解こうとする私を放すまいと強める、その抱く腕の強さも……

冗談にしてはキツ過ぎた……

違う。


「ごめん。修兵は悪くない」


勘違いして、勝手に好きになった


「莫迦みたい……」


其れだけだ。


「帰、るね……」


捕まれた腕を脱こうとした刹那、勢い良く引かれて目を見開いた。


今――…
キス、した……?


「修、兵……」

「態とだから」


…………は?


「態と、って……?」

「エイプリルフール」

「………っ」

「違ぇし」


瞬時に顔に熱が溜まって口唇を噛み締めた私に、修兵がシレッとした顔で否定する。


「勘違いしてくれるように、エイプリルフールを選んで云ったんだよ」


好きだ、って……


「何、で……」

「断らせねぇ為に」

「は…………?」


ゆっくり、ゆっくりと、修兵の手が伸びて来る。
未だ膝枕なんてしているせいで、やっぱり俯く事に意味は無い。
私の表情は全て修兵に晒されて、想いを隠す術も無い。


「普通に云ったって、鈍いお前は気付かねぇ処か、絶対に断んだろうが」


だったら、逃がさねぇようにするまでだ。


鈍い……って、そうかも知れない……って言うかちょっと待った。

そうかそうだった。
修兵はそういうヤツだったと頭を抱えそうになる。

顔を顰めて目を向ければ、意に反して、嬉しそうに微笑んで私を見詰める修兵の……


「ちょっ……、何?」


あっと言う間に押し倒されて、今度は私が修兵を見上げている。


「だから」

「……だから?」

「ちゃんと、お前が自覚すんのを待ってやっただろ」


――――っっ


私を見下ろすその双眸には、見たことのない烈情が宿っている……。

私が修兵に敵う訳が無い。

けど……


「修兵なんて、嫌い」


私の此の一週間を返せ。
あんなに悩んで、こんなに泣いて振り回されて……


「修兵?」


何で急に固まって……


「どうし……」


……たのと言い終わる前に抱き締められて瞠目する。


「修、兵……?」

「俺が悪かった、本当もう謝るから……。それ訂正しろ、そんで泣くな」

「…………」


嘘でもキツい……


なんて有り得ない事を言って、私をぎゅうぎゅうに抱き締めて焦り捲るなんて珍しい修兵が見られたから……


「修兵が、好き」


今日くらい素直になっても良いかなって、思った。





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