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03


霊圧を辿るまでも無く向かった執務室には、自席に座ったまま今にも泣き出しそうな顔で思案する姿が在った。

俺が来た事にも気付かずに、何をそんなに思う事が有るのかと勝手な苛立ちが増して行く。

憂いた表情を晒す、それが許せねぇと沸き上がる、正体の不明の感情に支配されて行った。


「何で来ねぇ」


霊圧は閉じたまま背後に寄って、あの日と同じ台詞を同じく憮然とした声色で告げる。

見開いた瞳と共に初めて揺れた霊圧を感じ取って、ザワリと総毛立つものを感じた。


「阿近、さん……っ?」


驚きに声を挙げるのに構わずに乱暴に抱き上げて、滅多に遣わない瞬歩で自室に連れ帰った。

ユラリと立ち昇る霊圧をそのままに組み敷いて深く口付ければ、不安げな双眸が揺らめいた。

当たり前だ。

今まで一度だって、そう言う意味で触れた事は無ぇんだ……。


「……何で、来ねぇ」


は――… と息を吐き出して、気を落ち着けながらもう一度、先と同じ言葉を投げ掛ける。


「俺は来いと云ったはずだがな」


不遜な態度を取っておきながら、途端に逸らされた視線に面白ぇくらいに反応した心臓に嘲笑が浮かぶ。

有り得無ぇ……

が、此れは間違いねぇな。


「あ、の……。ごめんなさいっ」

「…………」


寄せられた眉を見て取って、その続きを聞きたくねぇと痛みを訴えやがる。

此れは……


「ずっと、考えたんですけど……」

「ダメだ、許さねぇ」

「何をあげれば善いのか全然思い付かなくてっ」

「「…………は?」」


何が、何だって?


「あの、ダメって……」

「其れは忘れろ」

「はい?」


ずっと考えたって、それは……


「何を難しい顔してやがると思えば……」

「私はっ……阿近さんの事しか、考えてないです……」


この、野郎……


「阿近さんに、何を渡したら善いのか考え付かなくて……。訊いたら意味が無いし、誰かに訊くのも違う気がして……」


悩んでる間に今日になってしまったと、どうしようと思ってる内に定時も過ぎてしまって泣きそうだったと、眉を下げて涙目で見上げて来るのにとうとう撃沈した。

一人の女に振り回されて、こんなになる手前ぇが有り得ねぇ……。


「阿近さん……?」


怒ってます?と、突然、肩口に顔を埋めたまま動かない俺に、また不安そうに訊いて来る。

だから何だってこう、コイツは……


「難解過ぎる……」

「はい……?」


何でこんな面白ぇ女を好きになったかと、自分を褒め称えたくもなる。


「……お前が好きだっつったんだ」

「……初めて知りました」

「だろうな」


あれしきの事で、簡単に自惚れてくれるような女ならこんな苦労はしねぇ………っ


「何、泣いてやがる」

「阿近さんは……、私の事なんて、好きじゃないと思ってました……」



其処は重要じゃねぇ……



「……重要じゃ無ぇしな」

「…………」

「違うぞ」


此れっぽっちも悪いなんざ思っちゃいねぇが、其処は本当に大した問題じゃねぇ。


「他の誰にもくれて遣る気は無ぇからな」


なら、お前の気持ちは関係無ぇだろ。


「お前が誰を好きでも関係無ぇ。俺がお前が好きだっつーのは、変わらねぇんだからよ」



だから

この想いはきっと――…





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