修兵/恋次 | ナノ



  11


背中を押されて真っ直ぐに駆け出した。


檜佐木副隊長……


想うだけで胸が苦しい。

それは檜佐木副隊長だけなんですと伝えたい。

もう、答を間違えたりしないと……。





「逢澤三席が探していらっしゃいます……」


いつもの場所で、少し寝苦しそうにされていた檜佐木副隊長に躊躇いがちに触れて、其の瞳がゆっくりと開かれるのを待った。


「四宮……っ?」


想像もされて居なかったんだろう、私の姿を見た途端に勢い良く躯を起こされた檜佐木副隊長に、やっぱり今更かと胸が軋んだ。


どうして……


呟かれた小さな声を拾ってしまって思わず瞳を伏せる。

凝視する檜佐木副隊長の視線が居たたまれなくて、泣かないようにと微笑むのが精一杯だった。


何も言わない檜佐木副隊長の視線が辛い。

早く、早く云わないとと思えば思う程、言葉が詰まって勇気が出ない。

逡巡するばかりの私に溜め息を圧し殺して、悪いと、今日に限って早々に立ち上がった檜佐木副隊長にまた胸が痛んで、涙を堪えるように口唇を噛んだ。

まだ、何も伝えていない。
まだ泣いちゃダメだと自分を叱咤する。


「あ……」

「大丈夫だ」


あの、と、掛けようとした声を遮られてしまえば、もう何も云う事は出来なかった。
此方も見ずに、ちゃんと戻るからと苦笑されて、今度こそ声を失った。


違うんです。


そう思うのに、向けられた背に全てを拒まれた気がして、離れて行く背中をただ見詰めるしか出来ない。

上手く行かない。

この想いは、溢れるだけ溢れて

上手くは、行かないみたいだ……。


もう、遅い……





でも……っ


「四宮……?」


少しずつ遠ざかる背中を追い掛けて、必死に檜佐木副隊長の死覇装を掴んでいた。


「どう、した……?」


そんな私の行動を責めるでも無く問い掛けてくれる、優しい声音に涙が溢れそうになる。


「四宮……」

「檜佐木副隊長が、好きです」

「っ…………」


檜佐木副隊長が息を呑むのが解ったけれど、最後くらいちゃんと伝えたかった。


「もう……、遅いですか?」


遅い、なんて事は解っているのに往生際の悪い自分が厭になる。
握った死覇装も、離せないままで……


「……四宮。手、離せ……」

「…………は、い…」


ビク と揺れてしまった躯を上手に誤魔化す事も出来ないし。
死覇装を握り続ける手は、もう力なんて入っていないのに、強張ったままで云う事を聞いてくれない。


すみません、でした……


そう小さく呟いて、早く離して立ち去れと、思うようにならない躯に必死で命令するのに……



「すみませ……っ」

「違ぇよ……」

「…………」

「抱き締められねぇだろ」


此のままじゃ顔も見られねぇと、檜佐木副隊長の声が優しく響いた。

それ、は……


「好きです」


私はまた、間違えたりして居ないだろうか……


檜佐木副隊長が好きで、

ずっと、其れだけは変わらなかった。


想うまま、ギュッと腕を回して抱き着いた背中に顔を埋めて頬を寄せた。


「だから、俺が抱き締めたいんだって……」


そう、少し拗ねたように言われても……

まだこうしていたい。

嫌ですと首を振る。
抱き締める腕に力を籠めた。


「そんなに力入れたら、指を傷めるだろ」


そんな私に呆れるでも無く、しょうがねぇなって優しく笑ってくれた。


もう離さねぇよ


重ねられた掌が、私を包んでくれた――…






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