修兵/恋次 | ナノ



 12


「逢澤三席が探していらっしゃいます……」


心地好い声音が耳に響いて覚醒を促す。
優しく揺り起こされて緩慢に開けた瞳に


「四宮……っ?」


映った有り得ない其の人の姿に、俺は勢い良く躯を起こした。


どうして……


もう二度と、四宮が此処に来る事は無いと思っていた。

凝視する俺の視線に、困ったように眉を垂らして優しく微笑う。


圭冴の野郎は、本当に良い性格してやがる……


吐きそうになった溜め息を噛み殺し、悪いとだけ言って立ち上がった。

何か云いた気に逡巡する様子に、真っ直ぐちゃんと戻るからと笑みをつくって背を向けた。


背後で揺れた霊圧を感じて、不自然じゃ無かったかと懸念する。

触れたくてしょうがない温もりが傍に在って、抱き締めたいと焦れるのに叶わない。

もう、困らせたくなんかねぇんだ……。






「四宮……?」


歩き出した背を何かに引かれて振り返れば、四宮の手が俺の死覇装を掴んでいた。


「どう、した……?」


やっぱり何かやらかしたかと、焦る気持ちを抑えて出来るだけ優しく問い掛ける。


「四宮……」

「檜佐木副隊長が、好きです」

「っ…………」



今、何て――…



違う。何を言われたかなんて、ちゃんと解っている。
返す言葉なんて一つしか無ぇのに、声にならねぇなんて事が有るんだと知った。


「もう……、遅いですか?」


そんな訳無ぇだろ


死覇装を握り締めたまま、震える声で問われて莫迦野郎と思う。


「四宮。手、離せ……」


ビク と揺れた躯が愛しくて、違ぇよと苦笑した。


「抱き締められねぇだろ」


此のままじゃ顔も見られねぇ。

のに、


「だから、俺が抱き締めたいんだって……」


云ってんだろと言う俺の顔は見られたもんじゃねぇだろう。

好きですと、もう一度小さな声が響いて、今度は背中に感じた温もりを俺が拒める訳も無ぇ。


そんなに力を入れたら指を傷めるだろうと、そっと小さな手を包み込めば、益々籠められた力が離さないと云っているようで顔が弛む。


「もう、離さねぇよ」


だから早く抱き締めさせろと、焦れる想いに只管耐える事にした。






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