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一分、
二分……
三、分…………
「もう無理」
「…………え?」
此処が俺の我慢の限界だったらしい……。
「暫く戻らねぇから」
『は?……って、はいはい。一時間な』
徐に伝令神機を取り出して圭冴に連絡を入れれば、乱暴な口調に動じる事も無く、まるで予定調和のような返事を返される。
俺達の簡素過ぎる遣り取りを疑問に思ったんだろう、やっと四宮の腕が弛んだ隙を付いて、焦れに焦れ捲った躯を反転して絡め取った。
「伝令神、機……」
其の不思議そうな顔に、ああ、と思う。
圭冴は確信犯だから……
と言ったら、どんな顔をするだろうか。
『名前が違うじゃねぇかよ……』
阿散井が帰った後の副官室。
そう言った俺に眉間に皺を寄せたのは圭冴で、
『右っつったら右端だと思うだろうがっ』
『二人居て、右だろ』
彼女、四宮の隣には一人しか居なかった。
『…………だから手前ぇは……』
四人並んでただろうがっ!ボケっ!!!
お前の目はどんなイリュージョンだと逆に殴られた。
そんな圭冴も多少は憐れんでくれて居たのか、俺の確信的な脱走を見逃して、面倒臭いのが八割だろうが、事有る毎に四宮を遣いに寄越してくれていた。
伝令神機を正か置いて行くはずが無いって事も勿論知らないはずもない。
全容を悟ったのか、口をパクパクさせる四宮に素直に謝れば、大きな瞳を更に見開いてぶんぶんと顔を横に振った。
多分、後から圭冴も謝るんだろう。
そうしたら、また飛び上がって恐縮すんだろうなと微笑えた。
とにかくもだ。
「やっと触れた……」
ギュッと抱き締めて堪能する。
やっと想うままに触れられる。
首許に顔を埋めれば、何とも言えない気持ちが胸に広がった。
あの日、散々好きに触れておいてと思われそうだが
消えるなと
何処か焦燥にも似た想いだった其れは、縋り付くに等しかった。
好きだと告げながら諦めて。
もう遅ぇと知っていた。
否定の言葉を遮るように口付けるくせに、四宮は逃げないと、其れだけは解っていたんだ。
そしてもう、今更なんだって事も……
「ずっと好きだった」
君を抱き締める、力を強める必要はもう無い。
「私も……」
好きです……
胸に顔を埋めるようにして全てを預けてくれる。
回された手が、俺を抱き締めてくれた……。
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