修兵/恋次 | ナノ



  09


「寝起きで頭は回って無ぇ、逆光で顔も見えなかった。……名前も、圭冴の野郎が間違いやがるから……」


そう言って、檜佐木副隊長は口唇を引き結んだ。



四宮、紗也ちゃん……?



あの日、檜佐木副隊長は酷く驚いた顔をされていたのを思い出す。


阿散井に頼まれて呼び出したのは、顔も名前も曖昧な新入隊士のはずだった。

失礼しますと不安気な表情で現れた彼女を見て、驚きより間抜け面になっちまってたのは間違い無ぇ。


何で彼女が此処に……?


そんな俺を置き去りに進む会話は、四宮紗也は間違い無く彼女なんだと伝えて来て……。


俺が好きなのは四宮で、四宮を振ったのは俺で……


何かが間違っている――…




「やっと全部が繋がった時には遅ぇと思った。もう今更だと。諦めたつもりだった……でも、無理だ」


ずっと、ずっと見ていた……


「阿散井と付き合うって聴いて、息が止まるかと思った」


俺は……


「四宮が、好きなんだ……」

「…………」

「諦めるなんて無理だ。気ぃ 狂う……」


もう遅いかと問い掛けながら、私を掻き抱く腕は弛む事は無く、だんだん深いものになりつつある口付けが止む事も無い。

されるがまま、少しの抵抗も出来ずにいる私は、きっと此の激しい拘束が無くても、指一本動かす事は出来ない。


どうしたって変えられない。
檜佐木副隊長が好きだと溢れ出る想いを止められない。

呼吸も、胸も、全部が苦しい……



好きなんです……



檜佐木副隊長も、もうきっと解っている。

私が云えない事も、直ぐには頷け無い事も……



ごめんなさい――…



何一つ言葉に出来ないまま



閉じた瞳に浮かぶのは

私を包む、優しい笑顔だった――…






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