修兵/恋次 | ナノ



 08


運命なんて言葉を、今まで一度足りとも信じた事は無ぇが、

もしも必然と言うモノが在るのなら、今、此の時がそうなんじゃねぇかと思った……。



新人隊士の正規配属後
九番隊の隊舎前

整列した新人隊士の中に其の姿を見付けた時には、知らず拳に力が入っていた。


『圭冴』

『何だよっ……て、名前で呼ぶのも珍しいな』


新人の統轄を一任していた三席で在る圭冴に、人前だってのも忘れて同期の気安さのまま声を掛けていた。


『右奥の、栗色の髪のヤツ。名前判るか?』

『は?……って、ああ。……どいつ?』

『どいつって……、他に居ねぇだろっ』

『居るだろ、ボケ!目に入んねぇのかっ』


何人か並んでんだろがとド突かれて、やっと周りの女に気付く程の惚けっぷり。


『右!』


っつーか、右しか有り得ねぇだろがと言えば、残念な目を向けられる。


『右…、ね。右………にしても、修兵がそう言うのも珍しいよな』

『……煩ぇよ』


パラパラと資料を捲りながら、くくっと愉しげに笑いやがる圭冴にムッとなる。

が、らしくねぇなんてもんじゃねぇ。
公私混同も良いとこだ。

其れでも、

ずっと見ているだけだった。

不用意に近付けば、瞬く間に消えてしまうんじゃねぇかと思う程、何処か現実味の薄い雰囲気が彼女には在った。


ならば、見ているだけで良い


なんてらしくねぇ事を思うくらいに、ただ焦がれていた。


其の、彼女が俺の前に立って居る。
少し緊張した面持ちが現実を伴って、やっと捕まえられるような気がした。

触れても、消えたりしないんだと――…




『おい、あんま見てっと泣かれんぞ。お前、顔恐ぇんだからよ……』

『だから煩ぇっつのっ』


余計なお世話だと一発殴り付けながら、『はいはい』と溜め息混じりに告げられた名前を……


彼女を見詰たまま

いつまでも反芻していた――…





『あの娘の名前は……』



伝えられた名は、

四宮 紗也じゃなかった。






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