▼ 04
「紗也っ!」
「……阿散井副隊長」
「隊舎ん中で待ってろっつったろっ」
角を曲がった阿散井副隊長が私を見留めた途端、物凄い形相で飛んで来た。
「でも……」
「副隊長命令な」
「…………」
狡い………
あの日の言葉通り、絶対に無理強いも、気持ちを押し付ける事もしないのに。
私の気持ちを一番に考えてくれるのに……。
こういう時だけは許してくれない。
副隊長命令だと、態と不遜な態度で、私が気にしなくて済むようにしてくれる。
「お前の為だけじゃねぇから。俺が心配で気が気じゃねぇ、紗也……?」
どうしてそんなに、と思ってしまう。
阿散井副隊長は、惜しみなく、包み込むように想いを与えてくれる。
……好きです
あの日、音にしてしまった同じ想いを、私は心の中で呟いた。
この優しい人が、阿散井副隊長が好きだと思う。
言葉にすれば、きっと嬉しそうに抱き締めてくれる。笑顔を、見せてくれるはず……。
「……今日は、私の部屋で食べませんか?」
それでも、それを解っていて口にしないのは、
もう間違えたくないからだ
まだ痛いと叫ぶ、この想いが消えて無くなるまでは……。
「…………」
「……阿散井副隊長?」
反応が全く返って来ない阿散井副隊長を不思議に思って覗き込む。
私も少し茫っとしていたから、何かを聴き逃してしまっただろう…か……
「阿散井副隊長っ!?」
えっ!?何?
何でそんなに
「真っ赤ですよっ!具合でも悪いんですか?風邪ですか?四番隊に行きま……」
「違ぇよっ!!!」
「…………」
あーもうそうだなそうだよなそう言うヤツだよなそれ以外には無ぇよな……ってブツブツと何かを唱えるような阿散井副隊長に恨みがましい目を向けられる。
「あの……?」
「遠慮すんなって言ったろ」
「…………」
だって、いつも阿散井副隊長が払ってしまうから……。
「俺の身が持たねぇから、今度な」
「ちゃんと食べられる物を作れますっ」
「だから、そう言う意味じゃねぇっ」
ムゥッとする私の頭に手を置いて
「それが解るまでは、まだまだ行く訳にはいかねぇだろ」
と、優しく微笑った。
その表情が切なくて……
俺から断ってもいいんだぞ……
あの日の檜佐木副隊長に重なって見えた、のは気のせいだろうか……。
行くかと取られた手を見詰める。
それが当然だと言わんばかりの行動に、大きくて温かい手に、何だか泣きそうになって知らず力が込もっていた。
「紗也?」
そんな私に直ぐに気付いて足を止めてくれる。優しく、言葉を待ってくれる。
「もう少しだけ……」
待っていて下さい、と言うのは狡いだろうか……。
「紗也」
「………あ、の?」
俯いた視界に陰が差して、名前を呼ばれた時にはもう阿散井副隊長の腕の中に居た。
「ゆっくりでいいんだ」
「…………っ」
い、ま……
「今は此れで我慢しとく」
「食べた……」
頬を押さえて口をパクパクさせる私を面白そうに見遣って、おうって悪戯っぽく笑う。
「いつか、此処に触れさせてくれ」
一瞬でその表情を真剣なものに変えた阿散井副隊長が、そっと伸ばした手で口唇をなぞって顎を掬われる。
近付いた口唇が……
「…………っ」
首許を食んで、離れて行った。
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