▼ 02
「……えっと。君、が……四宮紗也、ちゃん……?」
「檜佐木さんっ!そんな訊き方!」
意を決して入室した副官室には、檜佐木副隊長だけではなく阿散井副隊長もいらっしゃった。
檜佐木副隊長だけでも緊張するのに、更に他隊の副隊長までいらっしゃるこの状況に、思考が半分固まってしまった。
そんな私に投げ掛けられた台詞がそれ。
私の顔を見た檜佐木副隊長がどうしてこんなに驚いているのかは解らないけれど……
何故、疑問形なのか。
その理由は考えるまでもなく理解が出来て、より気持ちが深く沈んで行った。
私は名前を伝えたはずで、一応、告白だってしたはずで……
あんなに緊張して、莫迦みたいだ。
私の顔も名前も。告白さえも一月も経てば忘れられてしまう程度のものだったんだと、目の奥がジンと痛んだ。
突き付けられた事実が情けなくて恥ずかしかった。
もう、お願いだから……
早く帰りたいと、檜佐木副隊長の前から消えたいと只管願う。
檜佐木副隊長が、名前も知らない自分を此処に呼んだ理由は解らないけれど、もう叱責で無ければそれで良いと目を伏せた。
「あの……。呼ばれた理由は何でしょうか?何か不手際とか、失礼が有りましたか?それでしたら……」
「あー!ちょっと待った!違う。怒る為に呼んだんじゃねぇから」
「は、い……」
だったら益々、一体何なんだろうかと不安が増した私に気付いてか、ちょっと紹介しようと思っただけだと檜佐木副隊長は罰が悪そうに苦笑した。
紹介…、と言われてもと、何故か直立されている阿散井副隊長に目を向けた。
阿散井副隊長の事は勿論存じ上げている。
腐っても護廷十三隊、隊長格の方々のお名前くらいは……。
それに阿散井副隊長は、入隊試験の時に迷子になっていた私を助けて下さった方だ。
「えっと……。阿散井副隊長でいらっしゃいますよね」
「お、おう」
「あの、憶えていらっしゃらないとは思いますが……」
「憶えてるぞ!」
「本当ですか?あの時はありがとうございました。今更ですが、無事に入隊出来ました。阿散井副隊長のお陰です」
阿散井副隊長の笑顔が優しくて、私はつられるように微笑んだ。
随分と前の事なのに、憶えていて下さった事が思った以上に嬉しかった。
「御礼が遅れて申し訳有りません。私なんかが御礼に伺うのも失礼かと思ったのですが……」
「俺は!……ずっと探してた」
「え……? 何、で……」
「俺と、付き合ってくれ!ない…か……」
「おま、阿散井、何言っ」
「……ダメか?」
阿散井副隊長が何故私なんかを探すのか……と、疑問に思う間も無く伝えられた言葉に、今度こそ思考がフリーズした。
目の前で阿散井副隊長が必死になっている。
檜佐木副隊長が物凄く焦っている……
「……え?あ、あの、どちら、へ……」
「あー!違ぇっ!何処にとか言うなよ!?」
「は、はい?」
「だから!お前が好きだっつってんだ!!!」
「「……………」」
阿散井副隊長が、私を……?
好き??
「う、そ……」
「嘘じゃねぇっ!!!」
思いも依らなかった爆弾発言に、とうとう力が抜けてヘタり込む私を咄嗟に支えてくれたのは阿散井副隊長で……
「凄ぇ、役得」
って、幸せそうに笑った。
prev / next