私のこと、好き?
そう訊かれないことが、付き合ってから唯一の救いだった。其の言葉を、あの時初めて四宮が口にした。
然して、そう口にしながらも、俺の答なんて全く求めちゃ居ない。そうと分かる顔でただ瞳を俯けただけ。
『ごめんね……。檜佐木は私の事を好きじゃないって、知ってたのに……』
俺は、言いながら何とか笑を作ろうとする様に胸が痛いくらいに締め付けられるのに、一言だって言い返せないまま、ただ四宮の声を聴いて居ただけ……。
組み敷いた腕の中、悔いるような表情の意味に、まるで理解が追い付かなかった。
『檜佐木、あのね……』
『俺も』
『え?』
『付き合うか』
『………………』
『何だよ』思い出すのは、付き合うと言った時の有り得ない程に驚いた表情で。俺は告白は嘘なのかとムッとしちまったくらい、で……
「くそ……」
無駄に幸せそうだの、いつも嬉しそうに笑っているだの。あれは全部、俺の勝手な思い込みだったと言うのかと理不尽な焦燥も沸き上がる。
『檜佐木に好きな娘が居るのは知ってたし、あんな告白なんて全部断ってたのも知ってたから……』
「…………」
『便乗して一刀両断して貰おうと思ったのに、檜佐木、付き合うとか言うんだもの……』
何事かと思った。そう苦笑する四宮が……
『何の冗談かと思った。でも、私は檜佐木が好きだったから……』
偽物でも良かった……
だからごめんなさいと、とうとう溢れ出た涙を其のままに、自嘲するように笑った。
『四宮、俺はっ……』
『大丈夫だよ。今まで通り友達として傍に居るから』
『好きじゃ無ぇなら……』『あ、れはっ……』
あれは、何だよ……。
俺は、一体今更、どんな言葉を掛けようとしたのか。
答を見付けられないまま取り残された感情が、ただ焦燥として残った。
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