「次の実習の編成で少し変更箇所が有るって先生が……」
「………………」
「檜佐木?」
「っ、悪ぃ!何か言ったか」
「……うん」
考え事をしていたと謝れば、何も気にしていない体で微笑むから悪いともう一度苦笑いで返した。
「先生が、実習の事で残れるかって」
「……其れ、任せても良いか?」
「分かった。其れじゃあ……」
「四宮っ」
「……何?」
「いや、また明日な」
「うん……」
ぎこちない会話を絶対に変に思っているだろう。なのに、何も言わずにまた明日ねと背を向けた四宮にただ申し訳無いと思う。其の姿が離れて行くのを、寂しいとさえ思うのにと……。
「お前ら最近、一緒に居ねぇよな」
「………んな事は無ぇよ」
いつから見ていたのか、また痛い所を突いて来やがる圭冴に、思い切り罰悪く応えた。
らしくないと自分でも思うが、資料庫での事が妙に気恥ずかしくて、四宮に上手く接する事が出来ずに居る。
『好きじゃねぇなら……』傍に居ないと落ち着かないくせに、其れと同時に沸き上がる罪悪感にも似た感情が邪魔をする。
あの日以来、圭冴に云われた言葉が自分の不可解な感情と相俟って、ずっと頭に浮かんでは離れないままだ。
其れの何処か悪ぃんだよと思っていたはずの其れは、少しの後ろめたさも加わって俺を責め立てて来る。
あの時ズク と渦いた感情の答を知らない。そんな俺の焦燥なんて知る由もねぇ四宮が、真っ直ぐな瞳を向けて微笑むのにもまた胸が痛んだ。
檜佐木が好き。
其の想いが伝わる笑顔が今更ながらに辛く感じた。
声を掛けろと言ったり突き放したり……
「面倒臭ぇ……」
のは、此の訳の分からない感情のせい。振り回される四宮の負荷は何れ程かと思えば自分に苛立ちが増す。
手前ぇで決めた事に何をやってやがると自戒しても、此の胸の痞は消えそうに無かった。
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