「無駄に幸せそうだよな」
俺の物思いを知ってか知らずか、隣に並ぶ四宮の笑顔が幸せそうでむず痒い。
変わらない日常の中にも、其れなりの変化は有るようだ。
「……何か失礼な事言わなかった?」
「言ってねぇよ」
「もうっ」
ちょっと脹れた頬が可愛く見えて口元が弛みそうになる。照れを隠すように髪をくしゃりとかき混ぜれば文句の声が上がるからまた笑えた。
担任に頼まれた面倒臭ぇ買い出し。只の厄介事に駆り出されただけ。何をするでも無い。ただ二人並んで歩くだけ……。
そんな何でも無い小っちぇえ事にも嬉しそうに四宮が微笑むから、カァッと上がった熱を逃すように手で扇いだ。
「檜佐木、もしかして暑い?」
そんな俺を気遣ってか、何か飲む?と訊いて来るから、罰が悪くてあんま見るなと差し出された手拭いを避けて顔を背けた。
「暑い、訳じゃ無ぇよ……ってか優等生が寄り道して大丈夫かよ」
「…………」
「四宮?」
「あ……、うん。でも先生が一休みして来て良いって少し多目に渡してくれたから」
「アイツ……、お前に甘ぇよな」
「優等生だからね」
言いながら、ふふ と笑う柔らかな表情が好きだと思う。
「っ……」
好きって……
そう言う好きじゃ無ぇよと誰かにか分からない言い訳をしながら、四宮が手にしていた荷物を奪い取った。
別に女と出掛けるなんて初めての事じゃ無ぇのに、こんな時はどうしてた?等と一々戸惑う自分が信じられない。
「じゃあ……、真っ直ぐ戻ろうか」
「あ、あ……」
帰ろうかと言われれば寂しいと思う。矛盾ばかりの思いをコントロールする上手い術も無いまま、四宮の言葉にただ頷くだけ。けれど……
「檜佐木……?」
「いや、帰るか」
会話なんか無くても苦にはならない。此の関係が好きだと隣に並び続けた。
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