「最大の失敗……って……」
本当酷ぇ。四宮に対して失礼過ぎんだろと自分でも呆れる。
が、好きでもないヤツと付き合うってどうしたら良いんだよと、自分の失態に頭を抱えた俺を待って居たのは、
「おはよう、檜佐木」
「っ、お、おう……」
「何でそんなに驚くかな」
人を化物でも見たみたいにと頬を脹らます、いつもと何ら変わりのない四宮だった。
「何?」
「い、や……」
何だよとは思うものの、正直ほっとしたのも事実で。
目の前に居るのは、俺が嘘を吐いてでも失くしたくねぇと思った笑顔の四宮で……。
「何でも無ぇよ。ほら、行くぞ」
「変な檜佐木」
好きだと云われて其れを受け入れて。付き合うと決めたって何も変わらない四宮が、いつものように歩き出した俺の隣に並ぶ。
手ぐらい繋いでやるべきか……?
「檜佐木?」
「っ、ああいや……」
「…………?」
そう思って伸ばし掛けた手を止めた。
不意に、昨日触れた指先の痺れるような感覚が蘇って、其れを振り払うように頭を振った。
「檜佐木……?」
本当に熱でも有るのと、紅らんでしまった顔にそっと寄せられた指先が額に触れた。
「っ……」
また……、其の触れられた場所から広がる甘い痺れに思わず躯を仰け反らせていた。
「悪ぃ、ちょっと急ぐから先に行くわ」
「えっ?…………ああ、うん」
また……、後でね。
其の小さな呟きを拾い切る前に、俺は四宮から逃げるように駆け出していた。
「ヤベぇな……」
四宮相手に俺が緊張してどうするよと、遠く離れた場所でヘタり込む。
そうは思っても、上手く行かないものは行かない訳で……
「……戻るか」
用も無く四宮を置き去って来てしまった事に、払った指先に、今更ながらに後悔が募った。
「謝んねぇとな……」
きっと四宮がいつものように二人分の席を確保して待ってくれて居る。
変わらない日常を頭に描いて、はーーーと訳の分からねぇ緊張にも似た感情を吐き出した。
よし、と顔を叩いて、四宮の待つ教室へと足を向けた。
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