「紗也っ!!!」
「っ、……」
部屋に入る寸前の紗也を、瞬歩で寄って捕まえた。
痛みにか、紗也が肩を震わせたのが分かっても、掴んだ手の力は相当だろうと解っていて放してやれもしない自分に舌打った。
「誰だよ……」
「…………」
お前は、俺の…… と其処まで思っても、勝手過ぎる感情に反吐が出ても……、
「俺は、別れたつもりはねぇ……っ」
言いながら、まだ、なんて、其処に在る終わりに恐怖する。自分から遠ざけておきながら、失くしたくねぇんだとただ叫ぶように告げた。
今更だと、勝手過ぎると罵られても……
「何かっ、言えよ……っ」
捕らえて、身勝手過ぎる言葉を投げ付けても、何も云わない、振り返ろうともしない紗也に焦れて引き寄せるように此方を向かせた。
「紗っ……………………、な、……」
んでも、クソもねぇだろうっ
「ご、めん……っ」
もしも此の、紗也の涙が俺の勘違いじゃないのなら、
「泣かせて、ごめん」
気付けなくてごめん。
突き放して、一人にして、悲しませて……
「……別にもう良い」
「良くねぇよっ 俺はっ……」
まだ好きなんだと、怒鳴るように告げて掻き抱けば、
「厭だ……」
放してと、力無くもがく紗也の手が俺を拒んで胸を締め付けた。
「紗也……」
「…………私だって、別れた憶えはないよ……」
「だったらっ……」
「でも、」
私達は終わったんだって、自覚は有ったよ……。
急に、でも。距離を置かれた事くらいは、ちゃんと解った。
謝る事も、どうしてと訊く事さえ出来なかったけれど、私は、何とかしようと必死だった。
でも……、
『昨日の飲み会は、檜佐木副隊長と一緒でしたよ』
そうじゃ無かったんだって気付いたのは、いつも修兵を取り巻いていた彼女達に、其れは愉しそうに云われた時。
「修兵は怒ってた訳じゃない。修兵は、終わりにしたかっただけなんだって気付けなかった」
「違っ……」
「違わ、ないよ……」
『好いヤツはいるのか?』「やっと私の、現実になったよ」
だからもう、其れで良いじゃない……。
俺の知らない時間を、想いを。紗也が辛そうに口にしては其の表情を歪ませる。
「だから……、良くなんか、ねぇんだって……」
其れでも、例え紗也が本当にそう望んでいたとしても……
「今更でも、資格なんか無くても、」
もう一度 俺と向き合って欲しい。
「他のヤツなんか、見るな」
紗也がこうして、まだ俺の事で泣いてくれるなら、
「もう一回、俺とやり直してくれないか」
可能性くらい、有るだろ?
厭だと言わせるつもりはねぇけどと、抱き締める腕に力を込めた。
「なぁ……」
「………………」
「返事、は……?」
「………………」
本当に、自分勝手で申し訳ねぇが、頷いてくれるまでは気が気じゃねぇし放せねぇ。
今を逃したらもう、二度と紗也には届かないんじゃねぇかって、不安ばかりが頭を過る。
久しぶりに触れた温もりは愛しくて、放し難くて、よくも今まで何もしねぇで居られたなと、もしもの想像にすら身震いを覚える程……。
「………少し、考えた……」
「良いけど、後五分も待てねぇぞ」
「っ…………」
「今、自分勝手って思っただろ……。つーか其れで良いから早く頷け」
もう限界。
今更、格好つけても意味は無ぇ。躊躇ってたって、得るモノは何も無ぇって学んだばかりだ。
さっさと誤解も解いて、紗也の話も聴いて、今までの事を謝って……
出来るなら此のまま……
「そろそろ押し倒すぞ……」
「っ、其れは絶対 厭っ!」
「何でだよっ!浮気なんてしてねぇっ……」
「嘘だ」
「其処からかっ」
今 腕の中に在る大切なモノを、此のまま閉じ込めてしまえたら良いのに……。
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