「同情なんか要らないって言ってるじゃない」
「同情じゃねぇって何回も言ってますよね。ずっと気付けなかっただけだって……」
「嘘だ」
「紗也さんだって、言い逃げる気満々だったじゃねぇっすか」
何の期待もしない、まるで義務のように言葉を紡いだだけで……
「其、れは……、修兵君の好みが」
「俺のは単なる当て付けっすけど、紗也さんは阿散井なんすよね」
そう言ってやれば、困ったように眉を垂らして瞳を揺らした。
会いたくて、話したくて。
出来ればどさくさでも何でも良いから抱き締めたいと、禁断症状と戦い続けること三ヶ月。
やっと、俺の一人我慢大会を終わらせるべく帰還した紗也さんは、目出度く俺の副官補佐に収まって居る。
『修兵アンタ、恩を仇で返すとはどう言う了見よっ』
怒りの霊圧全開の乱菊さんだって、俺の鉄壁の惚け装備の前では敵の内では無い。
とにかく、こうして俺の想いを未だ信用してくれねぇ紗也さんは、同情だと決め付けては其の表情を曇らせるばかりで……
「修兵君、何を笑ってるのよっ」
「…っ………」
俺の異変に直ぐに気付いた紗也さんに文句を云われても、顔はニヤけるばかりだ。
つったって、無理だろ。
紗也さんがそうやって同情だと悲しそうな顔をするのも、だんだんと答え合わせのように繋がって行く想いも全部、
「そんな可愛い顔で何を言われても、好きだって言ってるようなモンっすよ」
「っ………」
そうして、其れだけは絶対に否定しないで居てくれる。
俺の気持ちは否定しても、紗也さんは自分の気持ちを偽らない。
俺を好きだって――…
微笑うなっつー方が無理だろう。
「で、どうなんすか」
あんなに遠いと、勝手に想い込んでいた紗也さんがこんなに近くに居て、俺を好きだと図らずも伝えてくれている。
もう、先輩の仮面を被る事も無ぇ。
其れが嬉しくて、幸せで。
緩み捲った面が情けなくても、紗也さんには今更じゃねぇかと完全に甘え切った思考で思う。
「………そ、れは」
「其れは」
困り切った顔が可愛くて、苛めてる気分になるからまたヤバい。
「……本人を目の前に、修兵君が好きだなんて云えないでしょ」
……云ってんじゃねぇか
何処をどう見たって愛しくしか思えない。
今までの俺は、何を見ていたのか……
本当に、思い込みって怖ぇなと嘆息もしてしまう訳で。
「紗也さんて、いつから俺を好きなんすか」
凄ぇ勿体無い事をしていた気がしてしょうがねぇ。
ちゃんと気付いて居れば、もっと早く、色々な紗也さんを知る事だって出来たのに……
「修兵君が、一回生に入って来た時」
「へ――… って、は?」
何か今、また有り得ない言葉を聴いたような気がするが、「だから、一回生の……」と罰が悪そうに頬を染める紗也さんは紛れも無く本物で……。
「私だって、片想いのままで十分幸せだったんだよ」
そう言って、恥ずかしそうに微笑ってくれた。
本当にこの人だけは掴めねぇ……
「紗也さん、趣味悪くねぇ?」
本当は訊かなくても分かっている。
そう苦笑する俺に、そんな事ないと口を尖らせてくれるんだろう。
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