修兵短編 壱 | ナノ


09

「同情なんか要らないって言ってるじゃない」

「同情じゃねぇって何回も言ってますよね。ずっと気付けなかっただけだって……」

「嘘だ」

「紗也さんだって、言い逃げる気満々だったじゃねぇっすか」


何の期待もしない、まるで義務のように言葉を紡いだだけで……


「其、れは……、修兵君の好みが」

「俺のは単なる当て付けっすけど、紗也さんは阿散井なんすよね」


そう言ってやれば、困ったように眉を垂らして瞳を揺らした。






会いたくて、話したくて。
出来ればどさくさでも何でも良いから抱き締めたいと、禁断症状と戦い続けること三ヶ月。

やっと、俺の一人我慢大会を終わらせるべく帰還した紗也さんは、目出度く俺の副官補佐に収まって居る。


『修兵アンタ、恩を仇で返すとはどう言う了見よっ』


怒りの霊圧全開の乱菊さんだって、俺の鉄壁の惚け装備の前では敵の内では無い。



とにかく、こうして俺の想いを未だ信用してくれねぇ紗也さんは、同情だと決め付けては其の表情を曇らせるばかりで……


「修兵君、何を笑ってるのよっ」

「…っ………」


俺の異変に直ぐに気付いた紗也さんに文句を云われても、顔はニヤけるばかりだ。

つったって、無理だろ。

紗也さんがそうやって同情だと悲しそうな顔をするのも、だんだんと答え合わせのように繋がって行く想いも全部、


「そんな可愛い顔で何を言われても、好きだって言ってるようなモンっすよ」

「っ………」


そうして、其れだけは絶対に否定しないで居てくれる。

俺の気持ちは否定しても、紗也さんは自分の気持ちを偽らない。



俺を好きだって――…



微笑うなっつー方が無理だろう。




「で、どうなんすか」


あんなに遠いと、勝手に想い込んでいた紗也さんがこんなに近くに居て、俺を好きだと図らずも伝えてくれている。

もう、先輩の仮面を被る事も無ぇ。

其れが嬉しくて、幸せで。
緩み捲った面が情けなくても、紗也さんには今更じゃねぇかと完全に甘え切った思考で思う。


「………そ、れは」

「其れは」


困り切った顔が可愛くて、苛めてる気分になるからまたヤバい。


「……本人を目の前に、修兵君が好きだなんて云えないでしょ」


……云ってんじゃねぇか


何処をどう見たって愛しくしか思えない。

今までの俺は、何を見ていたのか……

本当に、思い込みって怖ぇなと嘆息もしてしまう訳で。


「紗也さんて、いつから俺を好きなんすか」


凄ぇ勿体無い事をしていた気がしてしょうがねぇ。

ちゃんと気付いて居れば、もっと早く、色々な紗也さんを知る事だって出来たのに……


「修兵君が、一回生に入って来た時」

「へ――… って、は?」


何か今、また有り得ない言葉を聴いたような気がするが、「だから、一回生の……」と罰が悪そうに頬を染める紗也さんは紛れも無く本物で……。


「私だって、片想いのままで十分幸せだったんだよ」


そう言って、恥ずかしそうに微笑ってくれた。


本当にこの人だけは掴めねぇ……


「紗也さん、趣味悪くねぇ?」


本当は訊かなくても分かっている。

そう苦笑する俺に、そんな事ないと口を尖らせてくれるんだろう。







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