「………何か、調子悪ぃ」
何だか知らねぇが胸の奥がモヤモヤする。
上手く言えねぇが、何て言うかスッキリしねぇ……。
毎日毎日、昼間際になると苛々が増すっつーか、とにかく落ち着かねぇ。
物足りない。
違う。
何か大事なもんが抜け落ちたような、
そんな喪失感――…
「訳、解んねぇし……」
「何がっすか?」
「何でも無ぇよ」
人が考え事してんのに煩ぇよと言えば、無理矢理引っ張って来といて酷くねぇっすかと喚く。
確かに、と思ってみてやらないでもないが、今は其れ処じゃねぇと放置した。
「ホント酷ぇ……って、まぁ良いっす。其れより、もう昨日っすけど現世で偶然紗也さんに会ったんすよ。順調そうで……ってまた聞いて無いっすよね」
もう絶対ぇ、先輩には話し掛けねぇって文句を聞くとは無しに聞き流す。
とにかく、モヤモヤだかムカムカだか知らねぇが、何だか判らねぇもんは呑んでさっさと流すのが一番だ。
昼間際と言えば、最近見なくなった姿が脳裏に浮かぶ。
乱菊さんが忙しいっつってたから、任務で飛び回ってでも居るのか。
先輩、紗也さんと仲良くなかったっすかって当たり前だろ五月蝿ぇな……って、
「紗也さんっ?」
「うわっ、何すか!」
急に耳元でデケぇ声を出さねぇでくれないっすかって、そんな事に構ってる余裕なんかねぇ。
「今、紗也さんっつったよな。何で紗也さんが現世に居るんだよ」
「は?……って、先週の頭から現世で任務に着いてるじゃねぇっすか。正か忘れてたとか言わねぇっすよね」
「…………は?」
紗也さんが?
って、何……だよ、其れ。
聞いてねぇし。
俺が知らねぇなんて思っても居ないだろう阿散井が、十番隊に行った時の目の保養が減っちまったと喚いてる言葉も、今度こそ頭に入って来ねぇ。
「何でお前が知ってんだよ……」
声が、低くなる。
喉の奥が熱くて、腹の其所から、さっきから燻り続けた鉛みてぇなもんが競り上がって来る。
「俺っすか?俺は……」
先輩っ!?と慌てる声を無視して駆け出していた。
『出発前に、暫く現世で長期任務だからって言って紗也さんが挨拶に来てくれたんで……』
だから聞いてねぇ。
『紗也も忙しいのよ』
其の言葉を真に受けて、急に見なくなった顔を特段気にして居なかった。
姿を見なくなるまでの一週間、毎日のように顔を出しておきながら何でだよと、沸き上がるのは怒りの感情だけだ。
乱菊さんだって何も言わなかった。
紗也さんだって……
「好きだの何だの、ンなくだらねぇ事を云いやがる前に、他に言うべき事が有んだろーがっ」
ふざけんなと言う思いで駆け抜ける。
『明後日からは誰にも会えなくなるって……』
だったら……
「余計、何で言わねぇんだよっ」
俺には会わねぇで行くつもりだったのかと噛み締めた奥歯が、ギリと虚しく音を立てた。
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