「修兵が雛型を頼んだのにって文句を言ってるって報告が有ったわよ」
「直ぐに届けましたよ」
前に修兵君が可愛いって言っていた我が十番隊自慢の新人隊士が、とまた捻た事を思って嘆息した。
一体何が気に食わなかったのか。
どうやら其の新人隊士が雛型と共に返品されたらしい。
「だから、何で頼んだ本人が来ないのかって事みたいだけど?」
「届けさせますって、ちゃんと言いました」
だから私が行く必要は無いんです。誰が持って行ったって同じ雛型だ。
其れに、
「もう行きません。そろそろ時間も厳しいので」
昼休みもそうそう潰しては要られない。
「来週、からよね」
「はい。今まで無理を聞いて戴いて……、ありがとうございました」
どうしても修兵君に好きだと告げたくて、顔を出す口実に書類を回して貰っていた。
此れは私の我が儘だったから、忙しい修兵君のプライベートを割かせるのも嫌で休憩時間を狙って……。
さっさと玉砕してしまおうと思ったんだけれど……。
此れが思っていた以上に難関だった。
顔を見ては躊躇して、勇気が出なくて。
怪訝そうに見られても、喉がからからに渇いて、貼り付いたみたいに言葉なんか出て来なくて……。
今までの長い付き合いの中で、修兵君を相手にあんなに緊張した事が有っただろうか。
らしくなく打ち付ける鼓動に、心臓がおかしくなるんじゃないかと思ったくらいだ。
「今日、やっと云えました。お陰様で思い残す事は有りません」
今日が本当に最後だと決めて、勇気を振り絞った告白の結末は、望んだ過程を経てはくれなかったけれど……
振られた事には変わりない。
「振られた、って事?」
「…………相手にも、されませんでしたって言った方が正しいかも知れませんね」
信じても貰えなかった。
淡々と流された告白は、断る以前に、受け取る価値も無いんだと云われた気がした……。
其れは哀しい事だったけれど、辿り着いた答に変わりはないから其れで良い。
「……と、にかくですね!今日は準備の為に半休戴いているので、此れで失礼しますねっ」
思案気な顔になった乱菊さんに、殊更明るく笑って返した。
来週からは現世だし、暫くは向こうに滞在だから傷を癒すには十分で。
後少しの我慢で良い。
泣くのは現世に行ってから、そう決めていた。
言い逃げるみたいで情けないけれど、ちゃんと、次に会ったら笑えるように……
「修兵には、言ったの?」
「……いえ」
何度も云おうとして、結局、最後まで口には出来なかった。
身勝手な私が優先したのは、独り善がりな告白で、今までの付き合いでは無かった。
「ホント、最低ですよね……」
少しの同情もされたく無かった。
「私は、自分の気持ちを優先したんです」
優しい修兵君の事だから、現世に行くなんて言ったら余計な気を遣われるかも知れないと思って躊躇した。
「後で怒ってくれるなら、其の時に謝ります」
いつか傷が癒えて修兵君を忘れて、次に会う事が出来たなら……
きっと其の時には、また笑って居られると思った。
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