「……あー、はい。其れはどうもありがとうございます」
其れは良いんすけど、此方の書類の雛型が見当たらねぇんで、ちょっと十番隊のヤツ貸して貰って良いっすか。
そんな台詞を熟と述べるだけで此方を見てもくれやしない。
「返事が欲しいんだけど……」
「…………紗也さん?聞いてましたか?」
やっと向けてくれた瞳だって何の感慨も無い冷めたもので、修兵君の全てが仕事の域を出る事は無かった。
「聞いてたかって訊きたいのは此方なんだけど」
「だから其れはどうもって返しましたよね。そんな事より……」
「雛型ね、解りました」
そんな事、か……
あまりにも簡単に打ち消された想いが虚しくなって、溜め息まで吐いた修兵君に、だったらもう良いと背を向けた。
「ちょっ……、紗也さんっ?」
急に慌て出した修兵君だったけれど、どうせいつもはもう少し居座る私が今日に限ってどうしたとか、雛型の話を聞いてたかとか……
「雛型でしょ。ちゃんと直ぐに届けさせますから。ご心配無く」
そんなところだろうと算段を付ける。
もう一度掛けられた声は適当に躱して踵を反した。
もう来ないから安心してよ
そんな捻くれた事を思っては自分に嫌悪して、此れ以上は耐えられないと足早に副官室から離れた。
別に修兵君も私を好きでした、なんてオチを期待をしていた訳じゃない。
ただ……、自分なりに見切りと言うか、踏ん切りを付けたかっただけだ。
でも其れも、修兵君にとっては聞くにも値しない話でしかなかったと、自分の勝手さが良く見えて猿でも出来る反省をする。
「っあ――… 止め止め」
反省終わり。
返事が貰えなくたって、結果に何も変わりは無い事くらい理解している。
「振られる事も出来ないとか……」
覚悟していた結果だったと言うのに、言葉にすると存外キツい。
どうやら私は自分が思っていた以上に修兵君が好きだったらしいと苦笑した。
せめて、ちゃんと答えて貰えていたなら……
「だから、止め」
終わらせる事は出来たんだから、其れで良い。
告白してスッキリしようと思ったのは私の都合で、仕事にも修兵君にも、何の関係も無いんだから……。
もう考えるなと、知らず停止してしまっていた足をノロノロと動かして、先ずは雛型だと隊舎に戻った。
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