「紗也も今夜は参加するんだろ」
と、当たり前のように話し掛けて来るのは修兵で
「勝手に人の予定を捩曲げないでくれる?」
今夜はダメだと断れば、何でだよって眉根を寄せられてやれやれと思う。
「今夜はちょっと予定が……」
「お前にそうそう予定なんて有る訳ねぇだろ」
「…………」
別にお前なんて来なくても良いけどなと、口を挟む処か憎まれ口のオマケ付きでムッとなる。
「残念ながら、今夜は誘ってくれた人が居るんですっ」
余計なお世話だと舌を出す。
此方だって誰が好き好んで修兵のいる飲み会になんか行きたいか。
元カレなんか居たって何の楽しみも無い。
「……って、紗也。とうとうオッケーする事にしたのっ?」
と、早速食い付いて来たのは乱菊さんで、まぁ、そう言う事になるのかなと頷いた。
修兵の元カノってレッテルは、少なからず、私にとってはマイナスだったらしい。
暫くはそんな気になれなかったから、特段気にした事も無かったけれど、修兵と比べられるのは嫌だの何だのと敬遠する輩が多かったとは、何れも後から聞いた話で。
修兵とは別れた後も乱菊さん達を介しながら、何だかんだと縁が切れなかった。
私達は付かず離れず近くに居たから、まだ付き合っていると思っているらしい面々も少なくないとも聞いている。
そんな中で、
『俺は紗也さんが好きなんです』
想いだけなら檜佐木副隊長にも負けませんと云い続けてくれたのは、ずっと傍に居た後輩だった。
絶対に大事にしますからと向けられた真摯な瞳に、中途半端な気持ちじゃ失礼だと思っていたけれど……。
もう絆されても良いかも知れないとやっと思えた。
「……聴いてねぇよ」
「言ってないし」
そもそも、云う必要性が見当たらない。
何だか知らないがムッとする修兵に、今度は私が怪訝な瞳を向けた。
「誰だよ」
「修兵には関係無いでしょ」
今度は私を特別に思ってくれる人と付き合うんだ。
言いたい事が云えて、緊張もしない。
一緒に居る事が当たり前に思える、人を……。
『それって、今のアンタ達みたいじゃない』
そう、乱菊さんは言ったけど。
『今じゃ遅いんです……』
私達は終わってしまったから。
気兼ねしないのはお互いにもうそう言う対象じゃないからで。
別れた今じゃ意味が無い。
私達……、違う。
私には、あの時、必要だったんだ……。
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