修兵短編 壱 | ナノ


03

「遅れて申し訳有りません!」

「まだ五分過ぎただけだよ」


休憩時間を少し過ぎて副官室に駆け込んだ私に、吉良副隊長が優しい声で、だから大丈夫だよと笑って下さった。

そして、


「どうせ悪いのは檜佐木さんだろう?」

「っ…………」


何処まで知っておいでなのか、そんな事をサラリと口にする。


ズキリと痛んだ胸。
喉の奥が焼け付くように熱い……


今の私には辛い話題だなぁと瞳を伏せた。


遅れてしまったのは檜佐木副隊長には全く関係の無い事で、私が、切り替えるのに時間が掛かっただけ……


「…………いえ。檜佐木副隊長にはもう……」

「四宮君……?」


関係無いんです……


その一言が出て来ない。

言ったら、言葉にしたら。
必死に作り上げた仮面が剥がれ落ちて泣いてしまいそうだった。


檜佐木副隊長とお付き合い出来る事になった時、吉良副隊長は複雑な顔をされて居たのを思い出す。
色々と、想う処がお在りだったのかも知れないと今なら解るのに……。


「あ……、えっと……」


言いたくない――…


でも……。

今黙っていても直ぐに知れる事だと、奥歯を噛み締めて胸の痛みに耐えた。


「さっき、お時間を戴いて……。無かった事にして戴いたんです」

「それって、檜佐木さんは了承したのかいっ」


幾分上がった吉良副隊長の霊圧に、怒らせてしまったのかと躯が強張った。


やっぱり、失礼な事だったのかも知れない……


「檜佐木…副隊長、は、直ぐに了承して下さい、ました。あの、申し訳有りませんでした」


分不相応でした……


最後は顔を上げても居られなくて俯いた。
消え入るような声で呟いた想いは、みっともなく掠れてしまった。


必死に切り替えたつもりだったのに、こんなに簡単に崩れてしまう。


「私…… 迷惑、でしたよね」


好かれていると思い込んでいた。
迷惑だと気付きもしないで付き纏って……


「そんな事は、絶対に無いよ」


怒ってる訳でもないからと、慌てて側に来て下さった吉良副隊長に頭を撫でられて、耐えていた涙がとうとう溢れ出た。


「ちょっと意外で……、驚いてしまっただけなんだ」


怖がらせてごめんと、涙が伝う頬を辿るその手が優しくて抱き着いてしまった。


「こんなに可愛いのになぁ……」


いつもこんな私を受け留めて、苦笑いしながらそんな風に言って下さる。


後でちゃんと仕事はしますから……


ボロボロと泣きながら、もう少しだけと吉良副隊長の優しさに甘えた。





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