「遅れて申し訳有りません!」
「まだ五分過ぎただけだよ」
休憩時間を少し過ぎて副官室に駆け込んだ私に、吉良副隊長が優しい声で、だから大丈夫だよと笑って下さった。
そして、
「どうせ悪いのは檜佐木さんだろう?」
「っ…………」
何処まで知っておいでなのか、そんな事をサラリと口にする。
ズキリと痛んだ胸。
喉の奥が焼け付くように熱い……
今の私には辛い話題だなぁと瞳を伏せた。
遅れてしまったのは檜佐木副隊長には全く関係の無い事で、私が、切り替えるのに時間が掛かっただけ……
「…………いえ。檜佐木副隊長にはもう……」
「四宮君……?」
関係無いんです……
その一言が出て来ない。
言ったら、言葉にしたら。
必死に作り上げた仮面が剥がれ落ちて泣いてしまいそうだった。
檜佐木副隊長とお付き合い出来る事になった時、吉良副隊長は複雑な顔をされて居たのを思い出す。
色々と、想う処がお在りだったのかも知れないと今なら解るのに……。
「あ……、えっと……」
言いたくない――…
でも……。
今黙っていても直ぐに知れる事だと、奥歯を噛み締めて胸の痛みに耐えた。
「さっき、お時間を戴いて……。無かった事にして戴いたんです」
「それって、檜佐木さんは了承したのかいっ」
幾分上がった吉良副隊長の霊圧に、怒らせてしまったのかと躯が強張った。
やっぱり、失礼な事だったのかも知れない……
「檜佐木…副隊長、は、直ぐに了承して下さい、ました。あの、申し訳有りませんでした」
分不相応でした……
最後は顔を上げても居られなくて俯いた。
消え入るような声で呟いた想いは、みっともなく掠れてしまった。
必死に切り替えたつもりだったのに、こんなに簡単に崩れてしまう。
「私…… 迷惑、でしたよね」
好かれていると思い込んでいた。
迷惑だと気付きもしないで付き纏って……
「そんな事は、絶対に無いよ」
怒ってる訳でもないからと、慌てて側に来て下さった吉良副隊長に頭を撫でられて、耐えていた涙がとうとう溢れ出た。
「ちょっと意外で……、驚いてしまっただけなんだ」
怖がらせてごめんと、涙が伝う頬を辿るその手が優しくて抱き着いてしまった。
「こんなに可愛いのになぁ……」
いつもこんな私を受け留めて、苦笑いしながらそんな風に言って下さる。
後でちゃんと仕事はしますから……
ボロボロと泣きながら、もう少しだけと吉良副隊長の優しさに甘えた。
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