「僕の大事な補佐に何て事してくれるんですか」
全く……
と、阿散井とはまた違った目付きの悪さで見据えられて眉間に皺が寄る。
「お前の言うな」
「檜佐木さんのでは無いですよね、間違いなく」
もう色々な意味でと、視線は逸らされないまま淡々と告げられて言葉に詰まる。
「ああ、確か今日、振られたんでしたよね?天下の檜佐木修兵が。自業自得とは言え、本当ちゃんちゃら可笑しいですよね」
普段は礼儀を重んじる吉良が、今夜ばかりは責めるように言葉を選ぶ。
其れに関して全く二の句を次げられずに居る俺を見て取って、漸く視線を外した吉良が溜め息をくれた。
「そんなにウジウジしてるくらいなら、別れたくないと言えば良かったじゃないですか」
そもそも、良く見られたいとか無理してるからこんな事になるんじゃないですかと。
今度は呆れた視線を向けて、至極真っ当な事を言って来る。
「ウジウジなんてしてねぇよ」
そう憮然として返しても、そんな目で見ても知りませんよとジと目で返されて観念した。
「何もかもが想定外で、どうしたら善いか解らなかったんだよっ」
ずっと好きだった彼女に
焦れる程に焦がれていた四宮に
「不意打ちで好きですとか云われたら焦んだろ?」
「じゃあ、事前に告白しますと言えば良かったんですね」
………………
この野郎は……とは思っても全て本当の事だけに、罰の悪さを誤魔化すように注がれたままだった杯を煽った。
吉良の右腕と謂われる彼女、四宮紗也を、俺や阿散井はいつも羨ましがっていた。
申し分ない容姿に実力。
大人っぽい雰囲気に優しい微笑み。
決して出しゃばらず、陰ながら吉良を支える様は理想の補佐とまで称えられ、いつも乱菊さんが引き抜こうと躍起になっては吉良の胃を痛め付けていた。
『四宮君は、見た目を裏切った可愛らしい人なんですよ』
そんな風に言う吉良に、羨ましいを通り越した感情を懐くようになった頃には、俺は完全に四宮に堕ちていた。
こんな補佐が居てくれたら
そんな想いから、彼女に傍に居て欲しいという渇望に変わったのはいつだったのか。
そんな事すら判らない程に……
「だからそんなに好きなら別れたくないと……」
「……煩ぇよ」
今日こそは俺から四宮を誘うつもりで、見付けた『吉良への書類』と言う大義名分を持って三番隊へ向かった。
『漸くやる気に……』
『お前は少し先輩を敬いやがれっ』
三番隊の副官室で交わされたのは、まだ現状を把握仕切れて居なかった莫迦な俺の軽い会話。
大した事の無い用事をさっさと済ませると直ぐに其の場を後にした。
開け放した扉の先。
そんな俺を待って居たのは
全てを決めたような
そんな瞳をした四宮だった――…
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