きっと恋には続きが在って
私がその先へ進む事が出来なかっただけ――…無かった事にして下さいと頭を下げれば、大して間を空けずに解ったとだけ返された。
引き留めても貰えない私は、やっぱり其の程度の存在でしかなくて。
付き合っていたはずの半年に意味は無かったと、知らしめられただけ……
この期に及んで、私はまだ何を期待して居たんだろうか。
檜佐木副隊長の顔を見ないまま踵を返した瞬間、思っても居なかった苦笑いが浮かんだ。
あの告白の日と何も変わらない遣り取りは、ただ私を傷付けただけだ……。
*
別れると、やっと決心が着いたのは昨日の事だったのに。
昨日の今日で、あんなに会いたいと、連絡を待ち望んでも叶わなかった相手が現れた。
一日遅かった
なんて、吉良副隊長に用事で居らしたんであって、私に会いに来てくれた訳では無いのがまた嘲笑える。
次に偶然にでも会えたら云おう、そう決めていたから。
今がそのチャンスだと副官室から戻られるのを今か今かと煩い心臓を鎮めながら待った。
今日を逃したら、二度と話し掛ける事さえ出来ない気がした。
『檜佐木副隊長、此れから少しお時間を戴けますか』
多分……、違う、絶対に。
私が声を掛けなければ、そのまま自隊に戻られてしまっただろう檜佐木副隊長を呼び止めた。
少し強張った顔をされた檜佐木副隊長に申し訳無く思いながら、昼休憩前の今なら、あまり迷惑にならないだろうと時間を貰った。
本来なら、私から別れを告げるなんて畏れ多いにも程がある。
檜佐木副隊長からは云えずにいたのかも知れないと思う事さえ烏滸がましい。
其れでも。
このままでいるのは、もう耐えられそうになかった。
檜佐木副隊長から離れて人気の無い場所まで歩き着いたら、今までその気配すら無かった涙が溢れて、戦慄く口唇を引き結んでボロボロと子供みたいに泣いた。
こんなだから……、相手にもされないんだ。
私は見た目がちょっと大人っぽく見えるらしいから、もっと気楽に遊べると思われたのかも知れない。
実際は呆れるほど幼稚でつまらない女だと、悟い彼は直ぐに気付いたんだろう。
『私から付き合って下さいと申し上げましたのに、大変申し訳無いのですが……』
無かった事にして下さい。
深呼吸を繰り返して、意を決して告げた言葉に返されたのはたった一言で。
解っていたはずの言葉に、さっきまでの息苦しさも緊張も全てが失せる程に傷付いていた。
自分から言ったくせにね……
真っ直ぐに見詰めた先の檜佐木副隊長は難しい顔をされていて、懸念した通り、不快な思いをさせてしまった事も知れた。
相手にされないだけなら未だしも、今度は嫌われてしまうのかと思ったら、それが思った以上に脆弱な思考に直撃した。
今まで無理に付き合わせてしまって申し訳有りませんでした……
用意していた言葉を口に出来る程
私は強くなかった――…
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