修兵短編 壱 | ナノ


06

六回生筆頭の檜佐木修兵は、私が入学した時には既に有名人だった。

文武両道の優等生だとか将来有望だとか、加えてその恵まれた容姿とか……

でも私は、だから修兵を好きになった訳じゃないんだ……。





「八番隊、四宮です」


副官室の扉を叩いて名を告げれば、ガタガタッと何かが崩れるような音と呻き声がした……。


何……?


入室を許可する声に扉を開ければ、乱雑に散った資料に書類。蹲る修兵……


何をやってるんだか……


現状が一から十まで理解出来て、自然と笑みが浮かんだ。

無言のまま散乱した物を広い集めて机に置けば、修兵が罰が悪そうに苦笑した。


「……確認書類と、此処にも印をお願いします」

「紗也……?」


不思議顔の修兵の疑問も尤もな訳で……

全く。

京楽隊長も伊勢副隊長も困った性格をしていると思う。


『紗也ちゃーん、九番隊に書類頼むよ〜』

『……拒否権は?』

『隊長命令にそんなモノが在るとでも?』

『解りました……』

『あ、それからねぇ』

『まだ何かっ?』

『必ず手渡しで、確認印を貰って来てね』


紗也ちゃんの手にもねって


『はぁっ?』

『隊長命令です』

『ちゃんと渡して来ま…』

『隊長命令、です』

『…………解りました!』


そう言えば、仲直り?したと伝えてなかった。

お二人にも、心配を掛けてしまっていたんだろうと苦笑いが洩れた。


「……と言う訳でね」


書類を受け取りながら溜め息混じりに子細を説明するのに、差し出した右手を取ったまま一向に反応しない修兵に目を向ける。


「修兵……?」

「それって、捺すまで帰さなくて良いって事だよな」

「は………?」


何だか嫌な予感がして、慌てて退こうとしても遅かった。


「ちょっ…、離し」

「嫌だ」

「修兵――っ」


ぶんぶん振っても怒っても、嬉しそうに笑って離す気は無いらしい。

修兵はあの日から、箍が外れたように私に触れる。


『今までの分を取り戻す!』


らしい。


「子供みたい……」

「その方がいいって言ったろ」


………言った。


「憶えてたんだ……」

「忘れねぇよ。俺のドジっぷりを……」

「違うよ」


それは違う。


「修兵が、花を避けようとした先に小さい虫が居たの」


それでバランスを崩した修兵が、資料をばら蒔いていた。


「本当に全部見てたのかよ、カッコ悪ぃ……紗也……っ?」

「カッコ好かったんだよ」


修兵を好きだなぁと思ったんだ。


今もこうして抱き着く私に驚いて、真っ赤になっている修兵が……


「一番好き……」






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