六回生筆頭の檜佐木修兵は、私が入学した時には既に有名人だった。
文武両道の優等生だとか将来有望だとか、加えてその恵まれた容姿とか……
でも私は、だから修兵を好きになった訳じゃないんだ……。
「八番隊、四宮です」
副官室の扉を叩いて名を告げれば、ガタガタッと何かが崩れるような音と呻き声がした……。
何……?
入室を許可する声に扉を開ければ、乱雑に散った資料に書類。蹲る修兵……
何をやってるんだか……
現状が一から十まで理解出来て、自然と笑みが浮かんだ。
無言のまま散乱した物を広い集めて机に置けば、修兵が罰が悪そうに苦笑した。
「……確認書類と、此処にも印をお願いします」
「紗也……?」
不思議顔の修兵の疑問も尤もな訳で……
全く。
京楽隊長も伊勢副隊長も困った性格をしていると思う。
『紗也ちゃーん、九番隊に書類頼むよ〜』
『……拒否権は?』
『隊長命令にそんなモノが在るとでも?』
『解りました……』
『あ、それからねぇ』
『まだ何かっ?』
『必ず手渡しで、確認印を貰って来てね』
紗也ちゃんの手にもねって
『はぁっ?』
『隊長命令です』
『ちゃんと渡して来ま…』
『隊長命令、です』
『…………解りました!』
そう言えば、仲直り?したと伝えてなかった。
お二人にも、心配を掛けてしまっていたんだろうと苦笑いが洩れた。
「……と言う訳でね」
書類を受け取りながら溜め息混じりに子細を説明するのに、差し出した右手を取ったまま一向に反応しない修兵に目を向ける。
「修兵……?」
「それって、捺すまで帰さなくて良いって事だよな」
「は………?」
何だか嫌な予感がして、慌てて退こうとしても遅かった。
「ちょっ…、離し」
「嫌だ」
「修兵――っ」
ぶんぶん振っても怒っても、嬉しそうに笑って離す気は無いらしい。
修兵はあの日から、箍が外れたように私に触れる。
『今までの分を取り戻す!』
らしい。
「子供みたい……」
「その方がいいって言ったろ」
………言った。
「憶えてたんだ……」
「忘れねぇよ。俺のドジっぷりを……」
「違うよ」
それは違う。
「修兵が、花を避けようとした先に小さい虫が居たの」
それでバランスを崩した修兵が、資料をばら蒔いていた。
「本当に全部見てたのかよ、カッコ悪ぃ……紗也……っ?」
「カッコ好かったんだよ」
修兵を好きだなぁと思ったんだ。
今もこうして抱き着く私に驚いて、真っ赤になっている修兵が……
「一番好き……」
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