「今日も、来なかったかぁ……」
洩れた呟きに、我ながら莫迦じゃないのと突っ込んだ。
下らない賭けをした。
檜佐木副隊長から、一ヶ月連絡が来なかったら別れる。
そう勝手に決めてからは、私からは連絡をしなかった。
好きですと、付き合って下さいと告白をしたのは私。
莫迦な私は、思いがけず了承された事で、駄目元だった事も忘れて酷く舞い上がってしまっていたらしい。
だから、気付かなかったんだ。
そんな賭けをしてる時点で終わってたんだって事に……。
好きだと言われていない事に気付いたのは、お目出度い事に、付き合い始めて三ヶ月も過ぎた頃。
檜佐木副隊長からは、一度だって誘われた事も連絡を貰った事さえ無いと同時に気付いた。
「浮かれ過ぎでしょ……」
一ヶ月なんて決めたのは私の最後の悪足掻きでしかない。
私が顔を出さない事に
連絡を入れない事に
檜佐木副隊長が気付いて気にしてくれれば良いなんて、浅ましい事を思った結末が此れだ。
そんな事をしなくても、今日までの日々が答えだと解っていたはずなのに。
檜佐木副隊長がそんな些細な事を、気にするはずも無い。
「だって、好きでも何でも無いんだから……」
思わず口にしてしまった言葉が、全ての答だと思えた。
知らず力が籠って居たらしい、伝令神機を握り締める固く強張った指をゆっくりと外して行く。
鳴るはずがないと口にしながら、心の何処かで期待していたのかと呆れてしまう。
「此れから、どうしよう……」
どうやって別れを告げたら良いんだろうか。
今更、もう私から連絡なんて出来ない。
偶然を装って会いに行く事も出来ない。
他隊の一席官でしかない私が、檜佐木副隊長に偶然遭う確率はどのくらいだろうか……。
もう、勇気は遣い果たしていた。
一週間に何回くらいならしつこいと思われずに済むだろうかとか、声を聴くくらいなら許されるだろうかとか。
指折り数えて、ただ一生懸命だった。
好きだった、から……
そんな無駄な努力を続ける私は、彼の目に嘸や滑稽に映っていた事だろう。
「偶然とか嫌われないようにとか……」
その時点で彼女じゃないし。
考えれば考える程、深い闇に堕ちて行くようだった。
「何で気付いちゃったかなぁ……」
もしも気付かずに居られたなら
もう少しだけ幸せな気持ちで居られたかも知れないのに――…
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