『昨夜、何処に行ってたんだよ』
一人の部屋に帰りたくなくて、修兵にも会いたくなくて、昨日は友達の部屋に泊めて貰った。
心配したと少し怒ったように修兵が言う。
私を探し回ったと言うその言葉に薄い笑みが浮かんだ。
『紗也……?』
訝しげに問われて目を伏せた。
逸れるからと言って、繋いでくれた手を振り解いたのは修兵で、私の声なんて、拾う余裕もなかったじゃない。
私の存在なんか、忘れていたくせに。
彼女の事しか、頭に無かったくせに。
離した手が、全ての答えだと解っているくせに……。
『修兵とは、別れる』
『……………は?』
たっぷりと間を空けた後の其れに苦笑いを返した。
『冗談は』
『冗談じゃ、ないよ?』
始めから間違っていたんだと思う。
『理由を……、聞いてもいいか?』
『……無理をして、付き合う事に意味はないと思う』
『何だよ、それは』
『別れたい、理由』
『俺がいつ……っ』
『手を、………っ』
離したじゃない。
私から離れて、彼女を目で追っていたじゃない……。
そんなに彼女が好きなら、今も忘れられないなら
別れなきゃ良かったのに。
見られるのが嫌なら、何で私なんかと付き合ったりしたのよ……。
俺の―――…ダメだ……。口を開いたら泣きそうだ……。
『もう、話もさせてくれねぇの?』
『言いたい事が有るなら、ちゃんと聞く……』
ただ、何を聞いても変わらないだろうと思ったから。
『もう一度、手を繋ぐ気にはなれないだろうと思ったから……』
『見られたくなかったからでしょう……?』
『………っ』
私の問いに、修兵は何も言わなかった……けれど。
別れたいと告げた時に、修兵の霊圧が揺れたのが解って、少しだけ救われた気がした。
少しは好きでいてくれたのかと。
好きだと云ってくれた、あの言葉に嘘は無かったのかと……。
「……後悔したって、知らねぇぞ」
「しないよ」
後悔なんて、絶対にしない……。
私の後悔は、あの日頷いた莫迦な自分だけだ。
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