修兵短編 壱 | ナノ


02

『昨夜、何処に行ってたんだよ』


一人の部屋に帰りたくなくて、修兵にも会いたくなくて、昨日は友達の部屋に泊めて貰った。

心配したと少し怒ったように修兵が言う。

私を探し回ったと言うその言葉に薄い笑みが浮かんだ。


『紗也……?』


訝しげに問われて目を伏せた。

逸れるからと言って、繋いでくれた手を振り解いたのは修兵で、私の声なんて、拾う余裕もなかったじゃない。

私の存在なんか、忘れていたくせに。
彼女の事しか、頭に無かったくせに。

離した手が、全ての答えだと解っているくせに……。


『修兵とは、別れる』

『……………は?』


たっぷりと間を空けた後の其れに苦笑いを返した。


『冗談は』

『冗談じゃ、ないよ?』


始めから間違っていたんだと思う。


『理由を……、聞いてもいいか?』

『……無理をして、付き合う事に意味はないと思う』

『何だよ、それは』

『別れたい、理由』

『俺がいつ……っ』

『手を、………っ』


離したじゃない。

私から離れて、彼女を目で追っていたじゃない……。

そんなに彼女が好きなら、今も忘れられないなら

別れなきゃ良かったのに。

見られるのが嫌なら、何で私なんかと付き合ったりしたのよ……。



俺の―――…



ダメだ……。口を開いたら泣きそうだ……。


『もう、話もさせてくれねぇの?』

『言いたい事が有るなら、ちゃんと聞く……』


ただ、何を聞いても変わらないだろうと思ったから。


『もう一度、手を繋ぐ気にはなれないだろうと思ったから……』





『見られたくなかったからでしょう……?』

『………っ』


私の問いに、修兵は何も言わなかった……けれど。
別れたいと告げた時に、修兵の霊圧が揺れたのが解って、少しだけ救われた気がした。

少しは好きでいてくれたのかと。

好きだと云ってくれた、あの言葉に嘘は無かったのかと……。


「……後悔したって、知らねぇぞ」

「しないよ」


後悔なんて、絶対にしない……。

私の後悔は、あの日頷いた莫迦な自分だけだ。





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