灯りを落とした病室で、目覚めない君の手を握り締めていた。
目を瞑れば、脳裏に浮かぶ飛び込んで来た君の細い躯。
何でだよ……
その答えを知りたくて、早く応えて欲しくて。
俺は祈るように君に寄り添い続けた。
四宮が目を醒ましたと聞いて駆け込んだ病室は、重苦しい雰囲気に包まれていた。
朽木隊長、の他に、斑目や綾瀬川、更木隊長までが雁首揃えて四宮を取り囲んでいる。
「あの……」
状況が掴めねぇ俺に説明されたのは、四宮の怪我の具合と――…
「記憶喪失っ!?」
「……だそうだよ。本人は至って元気そうだけれどね」
「っすね」
元気ったってお前……
確かに見た目は変わりねぇし、性格も流石と言うのか動揺も少なそうに見えるが、躯中に巻かれた包帯が痛々しい。
しかも、記憶喪失って……
朽木隊長だけじゃなく更木隊長まで居る理由は解ったが、俺を庇ったせいでと遣り切れ無い想いが躯中から沸き上がる。
様子を窺うようにじっと見詰めて居れば、俺に気付いたらしい四宮が此方を振り向いて
……っ 今、目が合っ――…
「六十九……」
「おい……」
真っ直ぐな瞳に射抜かれて心臓が跳ねた。その瞬間のそれに、状況も何も忘れて突っ込んじまった。
紗也っ!お前ぇはもう少し……って、阿散井が頭を小突きながら怒っている。
何の主張かと思いましたので…って、あっけらかんと言い放つ変わらねぇ態度に、周りと同様に俺の気も落ち着いて行った。
その日から、四宮が何も憶えていないのを良い事に、俺は彼女の病室へと通い詰めていた。
また来たんですか、護廷十三隊はそんなに暇な組織なんですかと憎まれ口ばかり叩かれるのに、今まで相手にもされて居なかった現状故、それすら嬉しいと思うんだから仕方無ぇだろう。
「忙しい合間を縫って、顔が見てぇと思って来てんだよ」
思いっきり事実なんだが、間違い無く戯言だとでも思ってるのが解る表情に、つい顔が綻んじまう。
こうして笑っちまうから信じて貰えないって解っていても、顔が弛むのを止められない。
溜め息を吐かれても、睨まれたとしても。四宮の視線が俺に向いている、それだけで嬉しい。
こうして、言葉を交わせる事が……
「もう、帰っていいですよ」
「それは無理……」
「と言うか、もう来なくていいです」
「…………っ」
「私は大丈夫ですから、ご心配には及びません」
何だよこれ。心臓が痛ぇ……
「私が、檜佐木副隊長を庇ってケガをしちゃったからですよね。もう気になさらないで下さい」
「…………」
「隊長格の方を庇うなんて、余計な事をした私が悪いんだと思いますから」
四宮は多分、忙しい俺を解っているんだろう。
周りの奴等から何か聞かされたのかも知れない。
そうして気にするなと言ってくれているんだろうと解るのに、来るなと言われた事がこんなにも痛ぇ。
「檜佐木副隊長?」
どうかされましたかと、急に黙り込んだ俺を伺って来るのに、喉の奧が焼け付くように痛くて、声も、出ねぇ……。
俺は……
「何で俺が毎日、此処に来てると思ってんだよ……」
「………私がケガをしたからですよね」
「だよな……。普通に考えたらそうだよな」
そんな風に思い着きもしなかった。そんな自分にもどうなんだと呆れちまう。
罪悪感処か、俺はこの状況を喜んじまってたくらいで……。
傍に居られる事が、ただ嬉しくて……。
今が、ずっと続くもんだと思っていた。
記憶が戻った四宮が
この距離を許す訳が無ぇのに――…
「違ぇよ。俺は……」
お前が好きなんだよ……
記憶が在っても失くても。
それは俺に取って大差無ぇ事だ。
「四宮……?」
無言のままの四宮が気になって目を向ければ、俺の言葉に瞳を伏せる、初めて見る表情の……
「好きだ……」
無理、だろ……。
どうやったら諦められんだよ。
今を逃したら、二度と手に入らねぇ。
「悪ぃけど、絶対に諦める気は無ぇから」
叶わないと思っていた四宮の、こんなに近くに来てしまった。
もう、無かった頃には戻れない。
夢で終わらせたりしない――…
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