修兵短編 壱 | ナノ


09

「まだ慣れねぇ?」

「全く」


……慣れる訳がない。

今まで嫌われていると思っていた檜佐木副隊長にそんな瞳で見られるとか優しくされるとか甘やかされるとか……


「まるで付き合ってるみたいにされてもちょっと無理が有るって言うか……」

「みたいじゃ無ぇし」

「痛いですっ」


いい加減、付き合ってるって認めろ、慣れろ、諦めろと毎日呪文のように繰り返されて、最後には抱き締められて眠りに付く。

全くって何だと檜佐木副隊長は怒っているが、言いたい事を云えるようになった私を見る瞳は何処までも優しい。

私は、その全てが未だに慣れない。


諦め序でだと言われて、檜佐木副隊長の部屋に連れ戻されていた。

どれだけ厭がっても


『看病してくれねぇの?』


という最終兵器を持ち出すわ、完治した後も何だかんだ理由を付けて離してくれないわ。

この部屋で暮らし始めてもう、半年が過ぎようとしていた。


「まだ、厭か?」


触れて、抱き締めて、口付ける。
想うままに触れて来るようで、檜佐木副隊長は敏感に私の躊躇いを感じ取ってくれている。

厭だと言えば、それ以上触れて来る事は無い。


「……い、厭、な訳じゃないです。ただ……」


そう。もう、厭な訳では無いんだ。


「その余裕な顔がムカつくと言いますか……」

「………………」


その!笑いを堪えて震えてるのにも腹が立つ。

だって。
二年も一緒に住んで居たっていう事は、そういう事でしょう……。


「私はっ……」

「大丈夫。お前、処女だから」

「……は?」

「だから、お前は処女なんだって。俺以外とヤってなきゃ」


何、を言い出すか!この人はっ!


「何でそんなっ」

「お前、遠回しに言ったって解んねぇだろ」


解る!……はず……

それに、


「そんなの、当たり前じゃ……」

「知ってる」


そう言って、ギュッと愛しむように抱き締めてくれるから、泣きそうになる。


「絶対に何もしねぇから、一緒に住んでっつったのは俺」

「…………」

「……そういう事は、記憶が戻ってからにしろって言ったのは、お前」


そう言って微笑んで、少し懐かしむような瞳を向ける。


「莫迦だ……」


本当に、莫迦だ――…






*



「どうしてもダメなら鬼道ぶっ放しても良いから、逃げろよ……」


……もう。
そろそろ限界だった。


「……やっ 耳元で喋らないで…っ」

「……大丈夫。態とだし」

「……っ」


信じられないと言いたげな紗也が、真っ赤になって睨んで来る。

本当にコイツは――…


「前にも言ったけど、俺はこんなヤツだから。そろそろ慣れた方がいいぞ」

「自分で言わないで下さい……っ」


一生懸命応えようとしている様が可愛くて、洩れる声に煽られながらも軽口を叩いて気を逸らす。


「止めんなら……」

「ダメ。泣いても喚いても、厭だって言っちゃっても止めないで」


…………は?


「私は……」


いつまで経ってもこんなだから……


「ごめんなさい……」


…って、何だよそれ……

ちゃんと、止めてやるつもりだったのに。
厭だっつったら、死ぬ気で留まるつもりでいたのに……


「哭いて厭だって叫ばせてやるから。安心しろ」

「………っそんな意味で言ってない!」


莫迦は、お前だ……。

こんな戯言でも言ってなきゃ、壊しちまいそうになるくらい。

好きだと震える……。







「紗也……?」


応えのない彼女に、もう聴こえてねぇかと苦笑する。


やっと手に入れた――…


頬に残る泪の痕に口唇で触れて、腕の中で眠る紗也を抱き締めた。


もう、夢じゃない――…





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