「今度は、あの日と逆ですね……」
ベッドに横たわる檜佐木副隊長の傍らに腰掛けて、目覚めるのを待っていた。
檜佐木副隊長がそうしてくれたように、私なんかが居ても良いのかと不安な想いでいたけれど……。
ゆっくりと伸ばされる手にほんの少し許された気がして、その手を両掌で包んだ。
「……自分の生命力にムカつくな」
「何を言って……」
「罪悪感。……感じて、傍に居てくれたかも知れねぇだろ」
この人は……。
私が罪悪感と言う言葉に反応して息を呑むのに、檜佐木副隊長は悪戯っぽく笑っている。
「条件反射じゃねぇ。守りたかったんだ、俺が」
ギュッと握る手に力が籠められて、その表情が真面目なものとなる。
「俺は……」
どうして、と問わなくてももう、檜佐木副隊長の云いたい事が解るような気がした。
私はそれを聴きたくなくて、空いた掌で咄嗟に檜佐木副隊長の口を押さえた。
まだ十分に動けない彼が目で抗議するのに苦笑いして、掴まれた手をそっと外して距離を取る。
私も、伝えなきゃいけない事が有る……
「無事で良かったです」
「何、で、泣く…?」
何でだろう。
目の前で血に染まって行く死覇装を見た瞬間、心が壊れて行くようだった。
今度こそ、それは私の痛みだった――…
嫌われていると解っていても、失くし切れない想いが在った。
貴方を助けたのは、きっとそんな私。
「居なく、ならないで欲しかったんです」
何で庇ったりしたんだよ――…「この前の、質問の答えです」
あの日、隊舎の前で泣いていた私は――…
「ずっと、好きだったんです。嫌われてるって分かっていても……」
院生の頃から、貴方は私の憧れだった。
散々泣いて捨てたはずの想いは、まだ私の中に在ったみたいだ。
「そんな私の行動が、逆に檜佐木副隊長を縛り付けてしまった」
後悔したって足りない。
「だから、今度こそ忘れて下さい」
最後は目を合わせる事も難しくて、目を伏せたまま一礼して踵を返した。
一歩一歩、彼から遠ざかる。
そうして扉に手を掛けた私は、いつものように深い息を吐き出した。
「何、動いてるんですか」
絶対安静の意味、解ってますよね?
「お前が動かしてんだろ」
本当、しつこい……
「私じゃなくたって、良いじゃないですか……」
「無理だな。お前じゃなきゃ嫌だって、死ぬまで言い続けるって決めてんだ」
莫迦だ……
「何でですか……」
「紗也が好きだって、何回も言ったよな」
「だから、それは」
「お前だよ」
罪悪感なんかじゃねぇ。
「俺がお前の傍に居たかったんだ」
記憶が在っても、失くても――…
欲しかったのは
あの日
俺が泣かせた君――…
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