修兵短編 壱 | ナノ


08

「今度は、あの日と逆ですね……」


ベッドに横たわる檜佐木副隊長の傍らに腰掛けて、目覚めるのを待っていた。

檜佐木副隊長がそうしてくれたように、私なんかが居ても良いのかと不安な想いでいたけれど……。

ゆっくりと伸ばされる手にほんの少し許された気がして、その手を両掌で包んだ。


「……自分の生命力にムカつくな」

「何を言って……」

「罪悪感。……感じて、傍に居てくれたかも知れねぇだろ」


この人は……。

私が罪悪感と言う言葉に反応して息を呑むのに、檜佐木副隊長は悪戯っぽく笑っている。


「条件反射じゃねぇ。守りたかったんだ、俺が」


ギュッと握る手に力が籠められて、その表情が真面目なものとなる。


「俺は……」


どうして、と問わなくてももう、檜佐木副隊長の云いたい事が解るような気がした。

私はそれを聴きたくなくて、空いた掌で咄嗟に檜佐木副隊長の口を押さえた。

まだ十分に動けない彼が目で抗議するのに苦笑いして、掴まれた手をそっと外して距離を取る。


私も、伝えなきゃいけない事が有る……


「無事で良かったです」

「何、で、泣く…?」


何でだろう。
目の前で血に染まって行く死覇装を見た瞬間、心が壊れて行くようだった。


今度こそ、それは私の痛みだった――…


嫌われていると解っていても、失くし切れない想いが在った。

貴方を助けたのは、きっとそんな私。


「居なく、ならないで欲しかったんです」



何で庇ったりしたんだよ――…



「この前の、質問の答えです」


あの日、隊舎の前で泣いていた私は――…


「ずっと、好きだったんです。嫌われてるって分かっていても……」


院生の頃から、貴方は私の憧れだった。

散々泣いて捨てたはずの想いは、まだ私の中に在ったみたいだ。


「そんな私の行動が、逆に檜佐木副隊長を縛り付けてしまった」


後悔したって足りない。


「だから、今度こそ忘れて下さい」


最後は目を合わせる事も難しくて、目を伏せたまま一礼して踵を返した。

一歩一歩、彼から遠ざかる。

そうして扉に手を掛けた私は、いつものように深い息を吐き出した。


「何、動いてるんですか」


絶対安静の意味、解ってますよね?


「お前が動かしてんだろ」


本当、しつこい……


「私じゃなくたって、良いじゃないですか……」

「無理だな。お前じゃなきゃ嫌だって、死ぬまで言い続けるって決めてんだ」


莫迦だ……


「何でですか……」

「紗也が好きだって、何回も言ったよな」

「だから、それは」

「お前だよ」


罪悪感なんかじゃねぇ。


「俺がお前の傍に居たかったんだ」


記憶が在っても、失くても――…



欲しかったのは

あの日
俺が泣かせた君――…






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