修兵短編 壱 | ナノ


07

痛い―――…


何の異常発生かと言うくらいに沸いた虚を切り倒しながら、私は主張し続ける胸の痛みと闘っていた―――…


「気持ち悪い……」

「何しおらしい事言ってんだ」

「違います。見た目じゃなくて量ですっ!」


うじゃうじゃしてるのが気持ち悪いと言うか、堪に障る……。


「気持ち悪いんで一気に行きます」

「んじゃ、数な」

「はいはい」


一角さんには適当に返事を返して心臓辺りを鷲掴む。


胸が、痛い――…


手を振り払った時の、檜佐木副隊長の顔が脳裏に焼き付いて離れない。

止まない痛みにギリッと口唇を噛み締めて、もう何の痛みか判らないそれを振り切るように、私は渦の中に飛び込んで行った。







「切っても切っても……」


雑魚ばかりだから賭けにでもするかと、その邪魔にならないだけの小隊を組んで現世に来ていた。


「もう、へばったかよ」


と言うか……


「厭きました」


気持ち悪いのは無くならないし、胸の痛みもモヤモヤも、何一つとして解消されない処か不快感が沸き上がる。

それは多分……
この状況があの日に重なるからだ――…


あの日も、切っても切っても減らない虚に辟易して居れば、二時の方向で九番隊の下位席官が音を上げたのが目に入った。

雑魚と言っても数が数。

ちょっとの隙が命取りになると舌打ちした処で、やはりと言うか当然と言うのか。

虚の大群がその席官目掛けて襲い掛かるのが見えた。

危ない……

と、宙を蹴った瞬間、部下を庇う檜佐木副隊長が見えて、飛び込ん、だ……。

私は……


「もう嫌だ……」


消えないそれに、は―――…っと息を吐き出して左目の辺りを抑え付ける。

さっきから、頭まで痛くなっていた。

莫迦みたいに痛みを主張する胸も、お腹の底から沸き上がる不快感も。

何もかもが嫌になる。

檜佐木副隊長はしつこいし、私も相当しつこいらしい……

ずっと考えていた。



凄ぇ、仲良かったんだぞ。
最初は心配したけどな……




いつだったか、恋次先輩が苦笑いで言っていた。



それでも俺は、傍に居たいと云ったんだ――…



檜佐木副隊長がそう言った。

私は嫌われていたはずで、それでいいと思っていた。

罪悪感じゃないと言うのなら、同情じゃないと言うのなら。
それは何だと言うんだろう。

きっと私には解らない。

解らなくていい事だ――…






「……何、刀を下げてんだよ……」


不意に聴こえた声に目を開ければ、居るはずのない人の背に護られていた……


「檜佐木、副隊長……」


何で、此処に檜佐木副隊長が居るんだろう。
何で、私の前に……っ


「要らねぇなら……、もう全部諦めて、俺にくれ…」

「……檜佐木副隊長?」

「紗也っ!!!」

「……恋次先輩っ…まで」

「早く先輩、連れて帰れっ!!!」


崩折れる目の前の人を咄嗟に抱えて目を瞠った。


紅く染まる、これは――…


恋次先輩が道を開けてくれている。


何で……

厭だ。私は――…



「紗也!お前の仕置きは帰ってからな」


今は許す、だから早く行けと恋次先輩が青筋を立てていた。





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