痛い―――…
何の異常発生かと言うくらいに沸いた虚を切り倒しながら、私は主張し続ける胸の痛みと闘っていた―――…
「気持ち悪い……」
「何しおらしい事言ってんだ」
「違います。見た目じゃなくて量ですっ!」
うじゃうじゃしてるのが気持ち悪いと言うか、堪に障る……。
「気持ち悪いんで一気に行きます」
「んじゃ、数な」
「はいはい」
一角さんには適当に返事を返して心臓辺りを鷲掴む。
胸が、痛い――…
手を振り払った時の、檜佐木副隊長の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
止まない痛みにギリッと口唇を噛み締めて、もう何の痛みか判らないそれを振り切るように、私は渦の中に飛び込んで行った。
「切っても切っても……」
雑魚ばかりだから賭けにでもするかと、その邪魔にならないだけの小隊を組んで現世に来ていた。
「もう、へばったかよ」
と言うか……
「厭きました」
気持ち悪いのは無くならないし、胸の痛みもモヤモヤも、何一つとして解消されない処か不快感が沸き上がる。
それは多分……
この状況があの日に重なるからだ――…
あの日も、切っても切っても減らない虚に辟易して居れば、二時の方向で九番隊の下位席官が音を上げたのが目に入った。
雑魚と言っても数が数。
ちょっとの隙が命取りになると舌打ちした処で、やはりと言うか当然と言うのか。
虚の大群がその席官目掛けて襲い掛かるのが見えた。
危ない……
と、宙を蹴った瞬間、部下を庇う檜佐木副隊長が見えて、飛び込ん、だ……。
私は……
「もう嫌だ……」
消えないそれに、は―――…っと息を吐き出して左目の辺りを抑え付ける。
さっきから、頭まで痛くなっていた。
莫迦みたいに痛みを主張する胸も、お腹の底から沸き上がる不快感も。
何もかもが嫌になる。
檜佐木副隊長はしつこいし、私も相当しつこいらしい……
ずっと考えていた。
凄ぇ、仲良かったんだぞ。
最初は心配したけどな……いつだったか、恋次先輩が苦笑いで言っていた。
それでも俺は、傍に居たいと云ったんだ――…檜佐木副隊長がそう言った。
私は嫌われていたはずで、それでいいと思っていた。
罪悪感じゃないと言うのなら、同情じゃないと言うのなら。
それは何だと言うんだろう。
きっと私には解らない。
解らなくていい事だ――…
「……何、刀を下げてんだよ……」
不意に聴こえた声に目を開ければ、居るはずのない人の背に護られていた……
「檜佐木、副隊長……」
何で、此処に檜佐木副隊長が居るんだろう。
何で、私の前に……っ
「要らねぇなら……、もう全部諦めて、俺にくれ…」
「……檜佐木副隊長?」
「紗也っ!!!」
「……恋次先輩っ…まで」
「早く先輩、連れて帰れっ!!!」
崩折れる目の前の人を咄嗟に抱えて目を瞠った。
紅く染まる、これは――…
恋次先輩が道を開けてくれている。
何で……
厭だ。私は――…
「紗也!お前の仕置きは帰ってからな」
今は許す、だから早く行けと恋次先輩が青筋を立てていた。
prev /
next