修兵短編 壱 | ナノ


06

「また来たのかよ」


心底嫌そうな声に振り向けば、目付きの悪い禿げ…


「口に出すんじゃねぇよ」

「態とです」

「手前ぇ…」

「そんな顔したって怖くないです。慣れてますから」


考え事の邪魔した罪は重いですよと構えれば、手前ぇんトコで遣りやがれと青筋立てた一角さんが、結局構えて下さった。







「お前ぇはよ」

「何ですかっ」


こんな激しく打ち込みながら話し掛けないで下さいよ!

睨み付ければ鼻で笑われてムッとなる。
その余裕が腹立つんですがっ。


「お前は、俺を庇うか?」

「…………は?」


私の木刀を素手で受け留めて、「だから、俺が殺られそうになってたら庇うかって聞いてんだよ」って、真顔で莫迦な事を訊く。

らしくない……


「そんな命知らずな真似はしません」


何を急に言い出すのか。
何で敵に殺られる前に一角さんに殺られなきゃならない。
そんなの、十一番隊の不文律だ。


「恋次なら助けるか」

「…………」

「二年前に訊かれた。『お前は誰でも助けるヤツなのか』ってな」


『他人の戦いに首を突っ込むような莫迦は此処には居ねぇ』っつって……
うおっ!危ねぇなっ!!!

何しやがるって、それは此方の台詞だ。


「今、あの人がああなった元凶が判りましたんで」


ちょっと殺意が……

そんな余計な事を言うから、訳の解らない事を考えたり罪悪感を感じたりするんだ。

けれど、


「もう、いいですけど」

「へえ」


諦めんのかって、またニヤニヤとっ
その顔がムカつくんですって!


「違います。もう来ませんから」


昨日あれだけ言ったんだ。もう来る訳がない。


「来たら諦めるか?」

「そうします」

「だってよ」


………は?


「誰、に言……っ」


霊圧が上がる――…

檜佐木副隊長……が、何で此処に……。


「な……、んで……」


霊圧消して近付くのは止めて下さい。
一角さんもニヤニヤするの止めて下さい。

言ってやりたい事は山のように浮かび上がるのに、突然の事に言葉が詰まって出て来ない。


「諦めて、くれんの?」


触れられそうな距離まで近付かれて、やっと神経が繋がって息を吐く。


「昨日、私の話を聴いてました?」


もう関わらないでと、あれだけ言ったはずだ。


「俺は、解ったとは言ってねぇよ」

「莫迦ですか……」

「あの日。紗也を傷付けたこと以上に俺が仕出かした莫迦なことは無ぇよ」


聴いてたんだろ……


「……っ私は!」

「俺はお前に、知っている限りの話は全部した。俺がした間違いも、紗也がそれを知っていたことも」


お前が絶対に、俺を選ばないだろうことも。

その上で俺は、傍に居たいと云ったんだ。


「紗也……」


名前を呼ばれるだけで
胸が痛い――…


この痛みが

何の痛みなのか判らなくなる――…




緊急警報が鳴っていた。


『十一番隊管轄区に大量の虚が発生――』


至急現世に向かわれたし。


「一角さん!」

「お前も来るか?紗也っ!
恋次には言っといてやる」

「斑目っ!」

「行きます」

「紗也っ!!!」


掴まれた肩を振り払う。


「嘘だ……」


やっぱりそれは同情にしか聴こえない。

あの日の痛みがどうしても消えない。



何で庇ったりしたんだよ――…



私は、その答えを認めたくないんだ――…





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