修兵短編 壱 | ナノ


05

何れが本当の彼なのか……


ふざけた事を言ってみたり我が儘だったり。
かと思えば、急に真面目な顔になる。

今は、射抜くような視線が躯中に突き刺さる。

何を考えているのか、さっぱり解らない。
敢えてそうしているのかも掴めない。


何の為に……


そう考える事にも、もう意味は無い。


勘違いしちゃ、ダメだ……


私は、それだけは忘れちゃダメなんだ。


「私は、記憶が戻っています」


それが何を意味するか、檜佐木副隊長が解らない訳がない。
記憶が戻った私に、私なんかに関わる必要は無い。


「もう檜佐木副隊長が、罪悪感を感じる必要は無いんです」


どうして私はこの人と居たのか。

二年の間に何が有ったかなんて、私は知らない。
私が知っているのは、檜佐木副隊長が私をどう思っていたかだけだ……。

今も私に拘る理由は何なのか……

知りたかった。
けれど、もうそれもどうでもいい事だ。


あの日、目覚めた私の前に檜佐木副隊長が居た。
有り得ない現実に、まだ夢の中にいるのかと思った。抱き締められて息を呑む。

まだ、震えるんだなと思えば笑えた。

疾うの昔に諦めた

叶わない夢だとしても――…







「帰ります。治療、ありがとうございました…」

「お前の帰る場所は、此処だろ…」

「……違います」

「紗也…」


好きだ――…


抱き込む腕に力が籠もって引き寄せられる。

だから……
それは同情だ。


「私は、好きじゃない…」


檜佐木副隊長が瞠目したのが解っても、もうそれでいいと言い放つ。


「私はもう、関わって欲しくない」


私はこの人が苦手だった。

やっぱり今も、苦手だ…。


「だったら…、何で庇ったりしたんだよ」


―――……


不意に浮かんだ想いに、全否定して目を逸らす。


「……ただの…条件、反射です」


その事に、特別な意味なんか無かった。





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