何れが本当の彼なのか……
ふざけた事を言ってみたり我が儘だったり。
かと思えば、急に真面目な顔になる。
今は、射抜くような視線が躯中に突き刺さる。
何を考えているのか、さっぱり解らない。
敢えてそうしているのかも掴めない。
何の為に……
そう考える事にも、もう意味は無い。
勘違いしちゃ、ダメだ……
私は、それだけは忘れちゃダメなんだ。
「私は、記憶が戻っています」
それが何を意味するか、檜佐木副隊長が解らない訳がない。
記憶が戻った私に、私なんかに関わる必要は無い。
「もう檜佐木副隊長が、罪悪感を感じる必要は無いんです」
どうして私はこの人と居たのか。
二年の間に何が有ったかなんて、私は知らない。
私が知っているのは、檜佐木副隊長が私をどう思っていたかだけだ……。
今も私に拘る理由は何なのか……
知りたかった。
けれど、もうそれもどうでもいい事だ。
あの日、目覚めた私の前に檜佐木副隊長が居た。
有り得ない現実に、まだ夢の中にいるのかと思った。抱き締められて息を呑む。
まだ、震えるんだなと思えば笑えた。
疾うの昔に諦めた
叶わない夢だとしても――…
「帰ります。治療、ありがとうございました…」
「お前の帰る場所は、此処だろ…」
「……違います」
「紗也…」
好きだ――…
抱き込む腕に力が籠もって引き寄せられる。
だから……
それは同情だ。
「私は、好きじゃない…」
檜佐木副隊長が瞠目したのが解っても、もうそれでいいと言い放つ。
「私はもう、関わって欲しくない」
私はこの人が苦手だった。
やっぱり今も、苦手だ…。
「だったら…、何で庇ったりしたんだよ」
―――……
不意に浮かんだ想いに、全否定して目を逸らす。
「……ただの…条件、反射です」
その事に、特別な意味なんか無かった。
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