生まれて初めて好きな人と見る花火は、どんなに綺麗だろうと思っていた……。
「紗也〜 花火はどうだったのよ?」
「凄く綺麗でしたよ!」
ワクワクと顔に書いて在る乱菊さんに、満面の笑みで返した。
やっぱりそうよね〜って、ニヤニヤして頬を突いて来るのには苦笑して……。
これは嘘じゃない。
本当に綺麗な花火だったから……
只、私の勘違いで、嬉しい想い出には成り得なかっただけで……。
「それで花火の後は?どうしたのよっ」
「松本……」
「一人で帰りましたよ」
「「えっ!?」」
「いやあの……色々と、有りまして…… あ!私のせいなんですけどね。何か、勘違いしちゃってたみたい…で…。……花火、一人で見たんです……」
驚いて目が倍になってる日番谷隊長と、見る見る表情が曇って行く乱菊さんに申し訳なく思う。
「花火は綺麗でした!日番谷隊長の仰ってた場所、絶好のポイントでしたよ」
穴場ですよね、誰も居ませんでしたよ。
そう笑顔で報告してもお二人の顔は晴れなくて。
だんだん居たたまれなくなった私は、すみませんと言い置いて隊首室を後にした。
浴衣がどうの、髪型がどうのと、この三日間乱菊さんと大騒ぎだったのを眉間の皺を増やしただけで黙認してくれていた日番谷隊長。
浴衣選びから当日の準備に至るまで、我が事のように喜んで世話を焼いてくれた乱菊さん。
私の勘違いで、お優しいお二人にまで嫌な思いをさせてしまったかと思ったら、自己嫌悪で、いつも通りにと奮起させた気分が落ち込んでしまった。
昨日の事は誰のせいでも無くて、全部自分のせいだから……
「紗也!」
とぼとぼと廊下を歩いていると、乱菊さんが追い掛けて来てくれた。
どうされたんですか、日番谷隊長の皺が増えますよと笑顔を作る。
今度は貼り付いた笑顔になっちゃったけれど。
「隊長ったら、煩いから紗也と休憩入って甘味でも食べて来いって言うのよ〜」
だから、さ、行きましょって、乱菊さんはいつもの変わらない笑顔でウインクしてくれた。
優しくて素敵な上司に恵まれて、私は本当に幸せだ。
それに……
勘違いだったけれど、夢を見ていた三日間は間違いなく幸せだったから……
檜佐木副隊長にお会いしたら、誘っていただいたお礼とはぐれてしまったお詫びをして……。
それで全部、忘れてしまおうと決めた。
いつか、何であんな恥ずかしい勘違いをしたんだって、笑い話に出来るといい。
そんな風に思いながら……。
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