修兵短編 壱 | ナノ


09

特別じゃなくても(拍手)


「trick or treat!」

「…………」


本日、何度めになるか解らないそれに、無言でお菓子をばら蒔いてやる。

お前の袂は四次元ポケットか!とか何とか叫んでる修兵は、綺麗さっぱり無視だ無視。

何よ四次元ポケットって!

どうせこんな事だろうと山のようにお菓子を準備しておいて良かったと溜め息を吐く。

私は……
ハロウィンに限らず、こういったイベントが大嫌いだ。

修兵と付き合って、早や二ヶ月。
今まで特にイベント事が無かったから忘れていたけれど……。

朝から(何を企んでいるのか解らないが)何度も決まり文句を言ってくる修兵には悪いけど、イベントなんて、私にとってはトラウマでしかない。

学院の頃から、イベント毎に女のコ達に囲まれる修兵を見て来た私には嫌な記憶以外の何物でも無い訳で……


「…………なあ」

「はい?」


呼ばれて振り向けば、いつにない真面目な顔の修兵が立っていて。
いつの間に……と、その近さに鼓動が鳴った。


「お前のその菓子のストックはいつ無くなんの?」

「…………」


無くならないよ……。
本当に嫌で嫌で、これでもかってくらいに買って来たんだから……。


「別に、私に言わなくてもいいでしょう」

「お前は!!……お前は俺が、他のヤツラに言っても良いのかよ」

「…………良いよ」


だって、ずっとそうだったんだから。

私は、その言葉を聴くだけで胃がムカムカする。
眉間に皺が寄るのを止められない。

修兵はもう違うんだって解っているけど


「私は、イベントなんて好きじゃない……」


だから今年に限って、私に構う事なんてないんだよ。

ああでも……。
クリスマスもバレンタインもその他も。
一緒に楽しめない彼女なんて要らないかも知れないね。

それでも、今の私にはとても無理そうだと自嘲が洩れた。

修兵が溜め息を吐いたのが解ったけれど、そのまま副官室を出て行ってしまっても、私には止める術はない。


「やっぱり…… 無理かな」

「何がだよ」

「うわぁっ」


何で……


「今、出て行かなかった?吃驚させないでよ」


まだ心臓がバクバクしてるんだけどっ!


「出て行ってねぇよ。ちょっと扉に用が有ったんだよ」

「……は?扉?」

それは置いといてって、何なんだ。


「trick or treat……」

「ちょっと、いい加減に」

「知ってる」

「…………」

「紗也が苦手にしてんのも、その理由も。ちゃんと解ってんだよ」

「……だったらっ」

「だから、今年がダメなら来年言う。クリスマスもバレンタインも全部やる」


バレンタインは催促する訳には行かねぇから、俺が渡すって真顔で何を言うのか……


「俺はずっと紗也と居るから、トラウマじゃ無くならなくても関係無ぇけど……」


だから、他のヤツラとやれなんて二度と言うなよ。

無理とか、言うな……


「修兵……」


ごめんねと謝れば、紗也のせいじゃねぇから、寧ろ凹むと落ち込まれた。


「アピールしてたつもりだったんだけどな」

「それ解り難いから」


イベントは嫌いだけど、修兵とは一緒にいたい。



ずっとお前と居る――…



そう言ってくれるなら。


一緒に居る毎日の

何気ない一日になるように――…







「……修兵?何この立入禁止の札」

「邪魔者避け」





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