修兵短編 壱 | ナノ


07

「………好きだ」


休憩に入りますと、扉に手を掛けた紗也に絞り出すように告げた。


「好きだ」

「…………」


振り返ることもしない紗也に向かって、俺はその言葉を繰り返す。


「紗也が、好きだ」

「…………ありがとう、ございます」


抑揚のない声色に、沸き上がるのこの感情は何なのか。


「……休憩に、入ります」

「修兵って呼んで貰えるようになるまでに、七年掛かった」

「失礼します」

「紗也っ」


外へ出ようとする扉を押さえ込んで躯ごと囲えば、怒りを映した瞳で紗也が振り返る。


「もう、冗談は良いですっ」

「冗談じゃねぇよっ!!」


本当に冗談じゃねぇっ
どうしたら信じてくれんだよっ
もう何を言ってもダメなのか

我ながら、なんて自分勝手なんだと嘲笑えて来る。

けれど、さっきから沸き上がって来るこの感情は
怒りだ。

囚えた檻の中で勢いよく振り向いた紗也が、その近さに驚いたのか咄嗟に距離を取った。

俺の腕の長さの分しかないそれは、逃げた内になんて入らねぇ。

こんなにも近い、それは
今まで知らなかった距離だ……。

視界に映るのは、まだ触れるまいと拳を握り締める自分の両腕と


「もう、その話はいいですって…」

「聴けよ!」

「嫌っ」


結して触れようとしない、僅かな檻の中で身を縮める紗也の……


「ずっと、好きだったんだ」

「もう!その話はいいって言ってるでしょうっ」

「だから、聴け!」


聴きたくないと目を瞑る。耳を塞ぐ両手を捕られて押さえ付けてやる。


「何で……」


と呟いた紗也が、辛そうに涙を溢した。

だから、俺は、


「もう、一番近い場所だけじゃ足りねぇ。俺は……」


紗也に触れてぇんだ――…



告白して、吃驚して固まってるお前を見て、やっぱりダメだったと思った。
まだ無理だったって。

冗談にしてでも、お前を手放したくなかった。

言葉にすれば、なんて情けねぇ理由……


「………だったら!だったら昨日、そう言ってよ!」


何なのよ、何で今になって言うのよって、もうぼろぼろの顔を隠しもせずに紗也が泣く。


「紗也ごめん。あ、いや、違う。そうじゃなくて……」


抱き締めて、触れて、
その涙を拭ってやりたい。

まだだめだ。
まだ許されてない……

だから

早く、言え。


俺は、紗也に触れられる
たった一人になりたい。


「私も、修兵に触れたかったよ……」



もしも君に

許されるのなら――…






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