「今日の分の書類は、重要書類以外は処理済です………」
いつもと変わらないように、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて連絡事項を告げて行く。
修兵が戻って来たのは、書類配達と言って此処を出て行ってから、二時間程が過ぎた頃だった。
何だか慌てた様子にも見えたけれど、もう、気にすることはないと報告を続けた。
「…………それで宜しいですか」
台本のように読み上げて、やっと終わったと目を伏せる。
早く、今度は私が、この場を立ち去りたかった。
「あ、ああ。悪い。それで頼む」
また、悪い、か――…
その言葉を聞く度に、胸が痛みを訴える。
私の報告に、何度も謝罪を織り混ぜる修兵は
ほっとしたように息を吐き出す修兵、は……
昨夜から本当に
謝ってばかりですね、
檜佐木副隊長自分の声に、胸の奥の傷が悲鳴を上げたような気がした。
言葉に詰まった修兵の表情が固まっていたのも解ったけれど、私はそのまま踵を返した。
それだってもう、私の干渉する範疇では無いだろう。
修兵を『修兵』以外で呼んだのはいつ以来だろうと、沸き上がってくる想いに耐える。
初めて呼んだ時は、修兵に近付けた気がして嬉しかったのにと自嘲して、それもただの感傷だと奥歯を噛み締めた。
副隊長と呼んだのは、私なりのけじめのつもりだった。
けれど、その事に思った以上に傷付いている
私は本当に莫迦だ――…
休憩に入りますと告げて、一歩、また一歩と、不自然にならないように歩を進めて行く。
「………好きだ」
執務室を出て行く私の背に掛けられた言葉は、昨夜のそれと、寸分違わぬ言葉だった――…
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