「悪い!今日の書類……」
と駆け込んだ副官室には、自分の机に向かう紗也の姿が在った。
俺の姿を認めると、大量に積まれた書類を持って、確認をお願いしますと席を立った。
「今日の分の書類は、重要書類以外は処理済です。隊長印の必要な物は、要約済みで……」
仕事中に敬語で話すのは紗也のスタンスで。
淀みなく伝えて来る、いつもと変わらないその様子にほっとして、
阿近さんが脅すから…
と詰めていた息を吐き出した。
「午前中の担当区域の巡回の報告は受けてあります。午後の班は編成済みですが、そちらで宜しいですか」
「あ、ああ。悪い。それで頼む」
「解りました。……昨日から、謝ってばかりですね」
……檜佐木副隊長。
――――っ
自分の言葉を、こんなに後悔したのは初めてだった――…
紗也の言葉に、性懲りも無く傷付いたのは俺で。
そうして、俺が付けた紗也の傷はもっと深かったと知った。
紗也が修兵と呼んでくれるまでに要した時間は、俺には途方もないくらいの長い時間で。
傍に居ることが自然になるまで、少しずつ少しずつ、距離を縮めて行った先に得たもの。
初めて『修兵』と呼ばれた時の喜びは、言葉に言い表せるようなものじゃねぇ。
内心で、よっしゃ――っ!!!と叫んでいたくらいだ。
紗也の存在は、ずっと俺の隣に在った。
失くすのが怖くて逃げておきながら、どこかで、紗也に好きだと言われた事実が、何とかなると思わせていたのかも知れない……
けれどそれは、俺の勝手な思いでしかなくて
言葉にしねぇなら
何一つ伝わりゃしねぇのに――…
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