修兵短編 壱 | ナノ


05

「悪い!今日の書類……」


と駆け込んだ副官室には、自分の机に向かう紗也の姿が在った。

俺の姿を認めると、大量に積まれた書類を持って、確認をお願いしますと席を立った。


「今日の分の書類は、重要書類以外は処理済です。隊長印の必要な物は、要約済みで……」


仕事中に敬語で話すのは紗也のスタンスで。

淀みなく伝えて来る、いつもと変わらないその様子にほっとして、

阿近さんが脅すから…

と詰めていた息を吐き出した。


「午前中の担当区域の巡回の報告は受けてあります。午後の班は編成済みですが、そちらで宜しいですか」

「あ、ああ。悪い。それで頼む」

「解りました。……昨日から、謝ってばかりですね」


……檜佐木副隊長。


――――っ


自分の言葉を、こんなに後悔したのは初めてだった――…



紗也の言葉に、性懲りも無く傷付いたのは俺で。

そうして、俺が付けた紗也の傷はもっと深かったと知った。

紗也が修兵と呼んでくれるまでに要した時間は、俺には途方もないくらいの長い時間で。

傍に居ることが自然になるまで、少しずつ少しずつ、距離を縮めて行った先に得たもの。

初めて『修兵』と呼ばれた時の喜びは、言葉に言い表せるようなものじゃねぇ。

内心で、よっしゃ――っ!!!と叫んでいたくらいだ。

紗也の存在は、ずっと俺の隣に在った。

失くすのが怖くて逃げておきながら、どこかで、紗也に好きだと言われた事実が、何とかなると思わせていたのかも知れない……

けれどそれは、俺の勝手な思いでしかなくて


言葉にしねぇなら

何一つ伝わりゃしねぇのに――…





prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -